第515話 尻尾
森の中、茂みに身を隠しながら木の上を伺う。
見ればそこには、小さなリス……のような魔物がいた。
あれは《
第四エリアに出るほどの魔物であることから、それなりの格のある魔物であると想像するに難くはないが、しかしかと言って《首狩兎》ほどに強いわけじゃない。
というか《首狩兎》は第四エリアに出現する魔物としては最強に近い。
群れでいるという事実を勘案すれば、間違いなく最強と言ってもいいだろう。
初音の隠蔽アーツがなければ、正直俺でも厳しかった。
倒すだけなら出来たかもしれない。
だが、日が落ちるまでに素材をゲットして戻れたかと言われると確実に無理だった。
それくらいの魔物だ。
補助術のお陰で一対一ならかなりの強さの魔物と戦えるのだが、やはり経験が要求されるような戦闘になってくると俺にはまだまだ厳しい。
加えて、素材集めにも経験が必要だからな。
ちゃんと調べれば例え《首狩兎》とて、もっと簡単な素材採集方法などもあるのかも知れないが、課題を教えられてから調べて、なんてことはできなかったから今ある知識で挑むしかなかった。
試験が終わり次第、地道に調べて覚え直しておこうと思っている。
そのうち、どこか誰かから、同じものを取ってこいと言われる可能性は十分ある。
D級相当がとってこられる素材であっても、数が必要とか時期が悪いとかそうなってくると、取得が難しいなんてこともザラだし、いつでもどんな素材でも持ってこられる冒険者になれば、重宝されるし稼げるというものだ。
「……いま!」
初音がそう言って、懐から取り出した短刀……というよりも、ほとんど棒手裏剣のようなものを投げ込んだ。
それは、ビュッ、と空気を切り裂いて《幸運栗鼠》の腹部に命中する。
それだけで《幸運栗鼠》は、ボトリ、と地面に落ちていった。
「……いいな。あとは素材だが……」
俺がそう呟くと、初音は、
「傷つかないようにやったから平気。ここまで近づけたから、はずしようがなかった。創の補助術スゴイ」
そう言った。
《幸運栗鼠》は特殊な魔物、と言ったがこれは非常に警戒範囲が広いことで知られているからだ。
視認できる距離に近づけば、その時点でいの一番に逃走を選ぶ、極端に臆病な魔物なのである。
したがって、素材を確保してこいといわれても、大体の冒険者は失敗する。
冒険者はどう言っても荒くれ者が多いから、腕っぷしが強くても繊細な作業が不得意なものが多い。
特にD級以下となればその傾向が強い。
C級以上になってくると、みんなそれなりに器用でないと色々やってられないので無理ではないかも知れないが……。
この点、初音に与えられた課題《幸運栗鼠の尻尾》は、俺の課題と比べても結構な難易度だと言える。
俺が課されたらむしろ詰んでいたかも知れないくらいには。
けれど初音にとってはむしろ楽な相手らしかった。
もちろん、彼女には隠蔽アーツがあるからであり、それを使えば視認できる距離くらいまでなら普通に近づけるから、と。
実際、彼女はそのようにし、そして俺が補助術で強化したことでさらに近くまで来られた、ということだ。
「……あった、しっぽ!」
落ちた《幸運栗鼠》を発見したらしく、それを拾ったようだ。
尻尾は加工することで、幸運を……より具体的にいうなら、迷宮でのドロップ率をわずかに上げる効果があるらしく、それが魔物の名前の由来だったりする。
初音に残る課題は一つ。
かなり順調に進んでいると言えた。
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