第516話 最後の魔物
「最後はハーピーの風切り羽、か。これって結構難しくないか?」
俺が初音の最後の取得すべきアイテムについてそう言うと、彼女は少し考えてから言った。
「他の場所なら難しいと思うけど、ここならそこまでじゃないと思う」
「っていうと?」
「ここ……第四エリアのハーピーは森に住んでるタイプ。岩山とかに住んでるやつは、群れを作って周囲をずっと警戒してるけど、こういうところのはそうじゃないのが多い」
「確かに、生息域によって魔物の性質は変わるからな……森に出るのは、いわゆるはぐれタイプだったか」
「そう。あんまり群れを作らないで、一匹で生活してるようなタイプ」
「それなら群れよりは確かにずっと楽だな。ただ、空飛んでるわけだろう? 攻撃できるのか?」
「それについても心配ない……とにかくまず探さなきゃならないけど」
どういう方法かは分からないが、自信があるらしかった。
まぁそれなら構わないが……。
「空を探してれば見つかる……って単純な話でもないか」
「岩山系はそういう意味だと楽だけど、森に住んでいるのはその辺、気をつけてる個体が多いらしい。低空を飛んだり、木々の間を滑空したり、むしろ歩いている時が多いって」
「確かにそう習った記憶があるな……しかし、魔物について詳しいんだな。感心したよ」
冒険者学校で学んだわけでもないのに、かなりの内容を覚えていて、しかもこうして実際の狩りに活用できている。
それは立派なことだ。
俺の言葉に、初音は言う。
「小さい頃から、お父さんに色々教えてもらったから……」
「……あぁ、そういうことなのか」
しんみりしてしまいそうな気配に、初音は、
「うん。いい思い出だから大丈夫。それより早く行こう。時間なくなっちゃう」
「あぁ、そうだな」
*****
結局、俺たちは湖の周囲を回ることにした。
迷宮の魔物といえど、飲食するものはするからだ。
特に水については欠かせない。
だから、湖の周りを探せば一匹くらいはいるだろうという考えだった。
もちろん、迷宮から魔力や力を供給されているがゆえに、飲食は全く必要ない、という場合もあるのだが、この迷宮に関しては、ここまで見る限り、そういう感じじゃなさそうだからな。
しっかりとした生態系が擬似的にでも出来てるような、そんな印象を受ける。
だから可能性は高い……そう思って見回っていると、
「……いた」
湖に降りて、水浴びをしているハーピーの個体がいるのを見つける。
上半身は人間の女性であり、下半身は猛禽類のそれだ。
手というか、腕は全体的に翼になっていて、不思議な美しさを感じさせる魔物である。
ただし、その性質は凶暴であり、近づけば確実に攻撃してくる。
その太い足の爪で捉えられれば、高空まで上昇し、そのまま地面に向かって落とされるのでたまったものではない。
空を飛べれば関係ないだろうが、そんなスキルや術を持っている冒険者は高位冒険者でもない限り、ほとんどいない。
あんまり初心者向けとは言えない魔物だろうな。
「で、どうやってやるんだ?」
尋ねる俺に、初音は魔力を集約させ始める。
これは……。
「……《ウインドアロー》」
そう唱えると、不可視の風の矢が、ハーピーに向かって放たれた。
《風術》だ。
斥候系だから術系については持っていない可能性が高そうだと思っていたが、そうではなかったらしい。
風の矢はそのまま、ハーピーの胸部に突き刺さり、そのままハーピーは水面に向かって崩れ落ちる。
そこに向かって初音は走り込み、とどめを指した。
「……
笑顔でそう言う初音であったが、血みどろになっていてちょっと怖い気もした。
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