第517話 最後の試練

「……何とか間に合うかな?」


 地平線の向こうに見える、太陽……のようなものの位置を眺めて俺はそう呟く。

 初音も頷いて、


「走れば余裕。走れる?」


 と尋ねてきた。


「俺の方は体力的な問題はないけど……初音は?」


 体が小さいしまだ若いから、体力はそこまでないのではないかと思っての質問である。

 ただ斥候系と言うのも考えるとどうかな。

 場合によってはかなりの距離を走り抜け、戻って来ないといけない役割を自任していることを考えると、かなり体力はあるのかもしれない。

 どっちかな、と思って答えを待つと、彼女は言う。


「全然平気。今からフルマラソンでも走れる」


「なるほど。じゃあ走るか……でも少しは急いだ方がいいかな?」


「どうして?」


 俺の言葉に首を傾げる初音に俺は言う。


「多分、最後の試練が待ってるだろうから、な」


 そう言うと、彼女も俺が何を言いたいのか分かったようで、


「……あぁ、なるほど。じゃあちょっと急ごう」


「補助術かけるからそんなに疲れることもないはずだ。行こう」


 そして、俺たちは先を急ぐ。


 ******


「……やっぱりこうなってるんだなぁ」


 迷宮入り口……この迷宮に入って、一番最初にくじを引いた場所の手前あたりまで戻ってきて、俺はそう呟く。

 気配が悟られぬように、大きな岩の後ろに隠れながらだ。

 もちろん、隣には初音がいる。


「改めて意地の悪い試験。最初にアイテム取得の方法問わなかったのは、これをやりたかったから?」


 初音が先を睨みつつ言った。

 そこには大量の冒険者が何かを待っているように立っている。

 ただし、全てのアイテムを獲得し終わって仲間を待っている、という雰囲気ではなさそうだ。

 そもそも全部アイテム取得したら、迷宮を出て提出するように言われているんだからな。

 わざわざここで待つ理由もないだろう。

 

「そういうことだろうな。自分で取りに行くより、誰かが取ってきたものを奪う方が楽だと考えてる奴らがあそこにいるわけだ。数えるに……受験者全体の四分の一くらいか?」


「うん、そんなもん。でもあんまり強そうなのいない」


「……それは確かにそうだな。ま、強けりゃ普通に自分で取りに行くか……」


「群れなきゃ何もできない雑魚。蹴散らしてやる」


 犬歯を剥き出しにしてシャー、と言う感じで呟く初音。


「空気感の割に初音は血の気多いよな……待て待て。そんな無理しなくてもいいだろ」


 やってやれないこともないだろうが……あの人数だと、流石にE級しかいないとはいえ危険だ。

 俺たちが、ではない。

 あいつらが、だ。

 初音の攻撃は大体が必殺を狙ったものであるから、戦闘不能を狙うと殺してしまう可能性があるし、俺だってあの人数をどうにかしようと思ったらそうそう手加減もできない。

 補助術かけまくって腕力で蹴散らすことになってしまうからな。

 それを考えると、流石に、と言う感じだ。

 多少邪な考えを持っているとはいえ、殺してしまえという程でもないのだから。

 

「でも、どうする? ここで待ってても、時間まであいつら動かないよ?」


 初音の疑問に、俺は答える。


「気配を探ってみろよ、初音」


「え? ……あ、他にもいっぱいいる?」


 周囲をキョロキョロし出した初音。

 見れば、俺たちみたいに物陰に隠れて辺りを伺う冒険者たちの姿が何人も見えた。

 その中には最初、俺たちを誘ってきた陽キャグループもいる。

 俺に気づくと、軽く手を振り、それから片手だけ合掌するような形にして頭を下げた。

 誤ってるつもりなのか。そこまで悪い奴らじゃなかったのかもな。

 それから、迷宮入り口に屯してる奴らを指差した。

 あいつらも、困っているのだろう。

 流石にすべて蹴散らせるほどの実力でもなかろうしな。


 しかし、他に隠れている面々を見ると、それぞれがかなりの速度で手信号で色々と合図しているのが見えた。

 そしてそれが俺たちにもされる。

 初音がそれを読み取り、返した。


「……一斉に行こう、だって」


「それがいいだろうな。軽く相手しつつ、可能な限りぶつかり合わないように駆け抜ける。それが一番ってことだ」


*******


後書きです。

カクヨムコンに応募していた本作なのですが、

ComicWalker漫画賞を受賞することができました!

この賞はコミカライズしての発表を目指す賞ということで、この作品がそのうちコミカライズしていただけるかも!ということです!

こんな賞を頂けたのは、読んでくださっているみなさんのお陰です!

これからも更新続けていきますので、どうぞよろしくお願いします!

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