第518話 駆け抜ける

「……行くぞ!」


 誰が叫んだのかは分からなかったが、その意味は確実にこの場にいる冒険者全員に伝わった。

 ……いや、待ち伏せしてる奴らには何のことか分からなかったようだが。

 彼らはその声に驚いたような反応をし、そしてその直後、一斉に姿を現した俺たちにさらに驚いていた。

 慌てた様子で指示を出す奴もいたが、所詮はアイテム獲得を自分のリスクをとってやろうとしなかった、実力不足の烏合の衆に過ぎない。

 つまり、まともに指示を出したり、聞いて判断して動けるような者はいない。

 

 それでも、自分たちの目的だけは忘れていないようで、向かってきた冒険者に対する攻撃をすべく武器を振りかぶって襲いかかってきた。

 しかし……。


「ウォラァァア!!」


 裂帛の気合いを込めた一撃であろうが、やはり少しばかり迫力が足りない。

 動きも鈍く、この程度なら……。

 俺はその冒険者の攻撃を軽く身をずらして避け、そして腹に一撃入れる。

 もちろん、剣で切ってしまうと死んでしまうからそんなことはしない。

 剣を持っていない方の拳で殴っただけだ。

 けれど、防御力の方も低いようで、それだけで冒険者は倒れた。

 防具の隙間を狙ったとはいえ、流石に弱すぎる気も……まぁ普段B級と一緒にいるから俺の基準が高すぎるのかもしれないが。

 ちなみに、初音の方は俺よりももっとすごかった。

 縦横無尽に駆け回り、次から次へと冒険者を倒していっている。

 四人目を手にかけたところで、


「……道、空いた!」


 そう言って先を指し示した。

 そこには確かに冒険者たちがいない空間が出来ている。

 俺たちの目的は別に、冒険者たちの殲滅ではなく、あくまでもここを抜けることだ。

 だから、そうなった時点でやることは決まっていた。

 

「行くぞ、初音!」


「うん!」


 そして俺たちはまだまだ襲いかかってこようと近づいてくる周囲の冒険者たちを無視して、駆け抜けた。

 幸い、俺たちには補助がかかっている。

 元々のステータスもあって、足も速い。

 だから追いつかれることなく、そのまま迷宮を出ることができたのだった。


 後になって聞いてみると、結局そこにいた冒険者たちは全滅したらしい。

 もちろん、死んだわけではなく、倒されただけで後でしっかり戻ってきたが。

 やはり、まともに試験に挑んだものと、狡い手を使おうとした者とでは格が違ったようだ。

 ちなみに、襲いかかってアイテムを奪おうとしていたのは言うまでもないが、自分のものと違ったらどうするのか、とかは考えているやつと何も考えてないやつに分かれていたらしい。

 くじごと奪おうとしていたのと、あくまでもアイテムを数打ちゃ当たるでなんとかしようとしていた者トにだ。

 その辺の意思統一も出来てない感じが、昇格試験を受けるには早かったんだと言ってやりたい感じがしたが、まぁ今回のことで彼らも色々と考えることだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る