第519話 試験後
「……まずは、お疲れ様と言っておこう!」
アイテムを提出した後、筆記試験を受けた貸しビルのホールに集った受験者たち。
前方の壇上に立つ試験の責任者の男が、俺たちに向かってそう言った。
受験者たちの多くは疲労困憊で、かつ、見るに筆記試験を受けた時より数が五分の一ほど少ない。
おそらく、迷宮でまだ倒れているか、回収されている最中なのだろうと思われた。
死亡者もゼロではないだろうな。
あそこで冒険者に殺された、ということはないだろうが、どこかのエリアで魔物に殺されてしまったとかは普通にありうる。
まぁそこまでたくさんはそういう事故は起こらないと思うが。
そこまで実力がない者は流石に試験を受けないからだ。
最低限、行って帰ってこられるくらいの実力がなければ、昇格試験なんて誰も受けない。
こんなご時世だとはいえ、誰も死にたくはないからな……死なないことが冒険者の一番の才能だ、なんて言葉もあるくらいだ。
そしてそれは極めて正しい。
死ななければどこまでもチャンスは続いていくが、死ねばそこで終わりだ。
死んではならない。泥水を啜ってでも。
そう言うことだ。
そんなことを考えていると、責任者の男は続ける。
「まず試験結果の発表についてだが、筆記試験の採点もあるから、後日郵送及びウェブ上での発表となる。発表するサイトについては手元にあるプリントを見てもらえれば分かるだろう……」
しばらく事務的な説明が続いた。
そして、
「また、今回の試験内容について、いくつか疑問点もあったと思う。何か聞きたいことがあれば今なら答えるが、どうだ?」
と言っていたので、何人か手が上がる。
「では、そこの君」
「くじで取ってくるアイテムを決める形式でしたが、不公平だったのではありませんか?」
「それなのだが、あれはくじの方が特別性でな。その人間に見合ったアイテムが出るようになっていた。どのくじを引こうと、関係なくだ。これは最近開発された特殊技術でな。その者のステータスや、適性などを読み取り、活用するという技術で……まぁ細かいことは技術畑ではない俺には説明しきれないが、おおむねそういうことだ」
と意外なことが言われる。
冒険者界隈というのは、まだ発展途上というか、出来て三十年ほどしか経っていない。
そのため技術革新がずっと続いており、そしてそれを実践する場としてこういう試験が使われることもある。
公平性とか考えると微妙な気もするが、細かいことを気にし過ぎては何も前に進まないという世界情勢から日本にしては珍しく力技での開発が進んでいるのだよな。
だからこういうことはある。
「他には?」
「くじやアイテムを奪うという手段もありみたいな説明が最初ありましたが、それによってそういう行動に出た人間もそれなりに出たと思います。大半は失敗した思いますが、そういう人間を合格させるというのはアリなのでしょうか?」
「それなんだが、俺は奪っていいとは言わなかったぞ。あらゆる方法を使えと言っただけだ」
「え?」
「結構な人間が忘れているが、冒険者規則には他人に危害を加えない、というのがあるだろう。現実には無視されがちなところがあるし、実際の冒険者としての活動の中ではどうしても無視せざるを得ないこともある。だが、基本的には遵守すべき規則だ。つまり、それを前提に俺の言葉を解釈する必要があった」
「ということは……」
「まぁ、実際の合否については今は言えないが、規則を守らなかった、守ろうとしなかった、そういう評価になるとかなりの減点になるな。そういうことだ」
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