第512話 勤労少女
「分かった。兎は得意」
少女はそう言って頷いた。
「良かった。俺、動物系はどうも苦手でさ……オークとかならなんとでもなるんだけどな」
あれはデカい豚肉だからな。
獣系と言えば獣系と言えなくも無い。
ただ、どっちかというと人型なので、亜人系に括られるかな。
人と近しい動きをするので、経験浅めの俺でも比較的予測しやすい動きしかしないのだ。
「そうなの? 私はオーク嫌い。腕力凄い……あっ、そうだ、名前。私、
「おぉ、これはご丁寧に。俺は天沢創だ。《無色の団》に所属してる」
「《無色の団》……? って、あの?」
「あの、がどのなのかよく分からないが、同じ名前のギルドはなかったはずだから、それで合ってると思うぞ」
基本的にギルド名被りというのは少ないのだが、それでもありうるといえばありうる。
じゃあ同じ名前のギルド同士をどう区別するのか、というとこれは簡単なことで、登録番号とか登録日とかからだな。
割と厨二病なギルドリーダーが多いので、使いたい単語は被りがちだから仕方が無いところがある。
龍とか牙とかみんな使いたがるんだって……。
零細から中小辺りまでは名前被りは少なくないな。
流石に大規模ギルドになるとないのだが。
「そうなんだ……いいなぁ、有名ギルド」
「有名か?」
「有名。ギルドリーダーの白宮さんの美人っぷりと才媛っぷりが特に」
「あー……まぁ、そうな」
そんな人が俺の恋人なんだぜ、とか言いたくなるくらいに嬉しくなってくる話だが、流石にウザい奴になってしまうのは理解できるのでやめておいた。
それよりちょっと気になったことがあったので俺は尋ねる。
「で、君……一ノ瀬の所属ギルドは?」
この質問は場合によっては失礼になりかねないものだ。
特に低ランクの間は所属ギルドがつかないなんてこともあるからな。
昔の俺のように。
でもランクを上げていけば、ギルドから声がかかって所属できるようになることもある。
そういう意味でもランク昇格というのは冒険者にとって大事なことだ。
ただ、一ノ瀬については、俺がたまたま魔力を見られるから簡単に見つけられただけで、大半の冒険者は接近に気づかない程度にはこなれた隠密スキル・アーツの使い手だ。
これだけの手練れが、たとえE級だとしてもギルドに所属していないと言うことはありえない、そう思っての質問だったのだが……。
「……初音でいい。私、ギルドには入ってない」
「え、意外だな。かなりの腕なのに」
「私、隠れるのと、早く動くのは得意。でも、力があんまりないから……」
「それでも今回俺を追いかけたみたいに魔物を追跡したりできれば斥候として十分な需要がありそうだが……」
「E級くらいだと、ギルド所属のスカウトの報酬は低い。それに危険。家族が養えない」
「家族? もしかしてその年ですでに結婚を……」
中学生くらいにしか見えないぞ。
ありえないんじゃ。
そんな俺に初音は首を横に振って、
「まだ結婚できる年じゃ無い。家族は、妹と弟とお母さんがいる。六人家族」
「……六人? ええと……初音と母親だろ、あと弟妹が四人も!?」
そうじゃないと計算が合わない。
「うん」
お父さんどれだけ頑張ったんだよ……と言いそうになってお父さんは家族に入っていないのに気づく。
そんな俺の表情を読んだのか、初音は言う。
「お父さんは死んじゃった。冒険者だったの」
「……悪い。言いたくないこと言わせたな」
「ううん。私がお父さんを継いだ。だからいい。でもE級じゃお金にならない。弟と妹たちを私が大学まで行かせる……」
「……見上げた勤労少女だよ。よし、しっかり今回二人そろって合格しようぜ。あと……まぁギルドの話なんだけど」
「ん?」
「もしよかったら後でうちのギルドリーダーと話してみないか。報酬とかは色々相談に乗れると思うし」
「え、本当?」
「あぁ」
「考えさせて欲しい。いい話」
「構わないぞ。じゃ、改めてよろしく頼む」
「うん、頑張る」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます