第511話 協力

 アイテムを譲る、かぁ……。

 《オリーブトレントの実》については、すでに複数手に入れている。

 一体からいくつか取れるしな。

 二体分あるわけだし、譲ったところで大した痛手でもない。

 売ればそれなりの収入にはなるが、それだけだ。

 ただ、別に俺がこの少女に譲る理由も特にないんだよな。

 まぁ、とりあえず話してみるか。


「俺が譲って何の得があるんだ?」


 別に嫌味でも何でもなく、直球で尋ねてみたつもりだが、口に出してみると若干皮肉っぽい言い方だったかもしれないな、と思う。

 冒険者としてはこれくらいでも問題ないか?

 あんまり柄のいい業界でもないからな。

 ただ少女に話すには少しアレかもしれないが。

 まぁいいか。

 この俺の言葉に、少女は微妙な顔をして、言う。


「得は……ない」


「そうだよなぁ」


「でも、何か交換条件があってもいい。そもそもそのつもりだった……失敗したけど」


「え? どういうことだよ」


「私、最初から貴方を追いかけてた」


「あぁ、そうだったな」


 聞いたというか、分かってた。

 だから何なのだろう。

 これに少女は言う。


「貴方が他のアイテム獲得で苦戦してたら、手を貸して、それと交換に私のアイテム取得にも手を貸してもらおうと思ってた。貴方のくじに書いてあったの、どれも大変そうな課題だったし……」


「あー、なるほど。でも特に近づいてこなかったじゃないか」


「うん。アイアンスライムの時は、流石に私には無理だった。あれはすごく硬い。私の力じゃ、攻撃が通らない。囮になるにしても、多方向に攻撃してくるやつだから、力になれないと思った」


「それでそこは様子見か。じゃあトレントは?」


「私も目的だったから、話しかけようと思った。でも、貴方は石を投げた後、唐突にトレントに襲いかかって、そのまま倒しちゃったから……話しかけ時を失った」


「あー……まぁ俺も隠れてたしな。話しかけられても困るタイミングではあったか……」


「そもそも、私はトレント相手は難しかった。それこそ囮しかできないくらいに。でも囮になっても無意味というのもあった。オリーブを撃ってくるから」


「それをしても、目的の実が手に入らなくなってしまうから、無意味、と。それもそうだな……」


「加えて、トレント系は……何でだか、隠密系のアーツやスキルが聞きにくい。どこから近づいてもバレる」


「それで苦戦すると考えて、俺を追いかけてたのか」


 これは一番納得の理由だな。

 トレント系の視界は、俺や雹菜に近い。

 つまり、相手の姿形を魔力で見てる。

 隠密系のスキルを使ったところで魔力丸見えでは無意味ということだ。

 アーツでも、それなりにこなれていないと結局俺の目では丸見えになってしまうように、同じことなのだろう。

 D級昇格試験を受けるくらいの隠密スキル・アーツでは話にならないと。

 

「うん……それで、このまま行くと話しかける機会もないまま終わっちゃいそうだったから、ここで話しかけた」


「最後の課題だけだもんな、俺。君の方は?」


「私はまだ一つ目。でも他の二つはそんなに難しくないから」


「そうなのか……うーん」


 話してる限り、そんな悪い奴でもなさそうだ。

 それに、ふと思ったのだが俺の最後の目的である《首狩兎》については攻略の仕方を考えていたところがある。

 アレはとにかく素早い魔物で、俺はそんなに得意じゃないんだよな。

 身体強化は全体を強化できるわけだが、素早さに対応するには経験や目に慣れが必要になる。

 ただ強化すればそれでいいというものではないのだ。

 相手が見知った人間なら、かなり早くても対応できるが、魔物の素早さって獣のそれで、予測が難しいのだ。

 まだ慣れていないというか……。

 その辺りを担ってもらえるなら、悪い話でもないか?

 そもそもこの試験は別に、受かるのが何人までとか決まってるものではないからな。

 課題をこなせれば合格だ。

 協力することそれ自体に、デメリットは特にない。

 そこまで考えて、俺は言った。


「……そうだな。譲ってもいいよ、《オリーブトレントの実》」


「本当!?」


「あぁ、首狩兎を倒すのに、協力してくれるなら、な」

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