第510話 追跡者、理由

 二つ目のアイテムになる《オリーブトレントの実》は、一体目のトレントの頭部から上を最初に切り落としてあるので、そこから得ることが出来た。

 二匹目の方は、たくさん撃ち込んできただけあって、一つも残りはなかったな。

 生きてる間は少しのインターバルを挟めばいくらでも生み出せるみたいだが、死んだ後、トレントの体に《オリーブトレントの実》が復活するということはなさそうだ。

 これが《オリーブトレントの実》のゲットの難しいところだな。

 普通なら、周囲に対する警戒能力が高いオリーブトレントに近づけば、すぐに遠距離攻撃として実を弾丸にして撃ち出してくる。

 そうなれば、もう《オリーブトレントの実》は取れない。

 だから最初に気づかれず奇襲し、実がついている部分を切り離してしまうのが重要なのだった。

 今回はそれにうまく成功したってわけだな。

 二匹倒した後、どこかに警戒しに出て行ったもう一匹も、なんだか何もなかったか……みたいな顔をして戻ってきたが、これについては警戒が薄れていたのか簡単に倒せたな。

 こいつからも実をとれるが、すでに得ているし、要らないと言えば要らないんだよな……。

 ただ、何かに使うこともあるかもしれないし、と思って一応ゲットして袋に入れておく。

 ちなみに食用としてもそこそこ人気があるから、最悪食えばいい。

 

 そう思って歩き出そうとした俺だが、ふと気づく。

 先程まで少し離れた位置で俺を観察していた何者か。

 そいつが気配を隠さずに近づいてきているのだ。

 一瞬どうするか迷ったが、さっきまで姿を見せようという気が一切なかったのだ。

 だからこそ、対応に迷っていたわけで、向こう側から近づいてきてくれるというのなら、堂々と相対した方がいいだろう。

 まだ最後のアイテムがあるし、それを得る前に憂いは解消しておいた方がいい……。


 そう考えて森のひらけたその場所に仁王立ちして待っていると、ガサガサと森の奥から、一人の人物が姿を表した。

 黒づくめのローブ姿であり、フードも被っていて顔も性別もよくわからない。

 ただし、かなり小柄に見えるから……女か?

 そう思っていると、


「……どうして待ってた」


 と尋ねられる。

 高く可愛らしい声で、これは女だと確定する。

 それも少女のものだ。

 事実、フードを外した彼女の顔は、中学生くらいの子供のものだった。

 まぁ高校卒業してそんなに経っていない俺だって、世間的に見ればまだまだ子供扱いされるような年齢だろうが……それでも法的には成人だからな、一応。選挙権もあるし。その差は大きいと思いたい。

 

「どうしてって、君が迷宮の入り口からずっとついてくるからさ。いつになったら話しかけてくれるんだろうって背後を気にしてた。ちょっと疲れちゃったよ」


「……気づいてたの?」


「そりゃあね」


「ウソ。だって私、アーツで気配を完全に遮断してる……」


「そう言われてもなぁ。実際、どこからついてきてたか、合ってただろ?」


「……合ってた」


「じゃあそういうことだよ」


「……わかった」


「それで、どうして俺を追いかけてたんだ? こう見えて俺は大したことない冒険者なんだが。特に有名でもないし?」


 こう見えても何も、見るからにパッとしない冒険者なんだよな。

 実際には非常に特殊な経験をしているわけだが、見た目からは絶対にわからないと言っていい。

 だから追いかける理由もないはず……なのだが、彼女は言った。


「アイテム、譲って欲しい」


「ん?」


「オリーブトレントの実、私も試験課題」


「あぁー……でもそれなら、なんで入り口から……」


「チラッと見えた。だから」

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