第524話 初音の育成方針

「あ、受かったのね。じゃあすぐに手続きとか経理に回しとくわ」


 執務室に入って報告すると、雹菜はくなにすぐにそう言われた。


「えらい話が早いな」


 もっと合格自体に反応があると思っていたが、淡白な感じだ。


「初音はともかく、創が落ちるとはまるで思ってなかったからね。それに初音にしたって試験内容聞く限り減点されるような部分なかったし」


「なるほど」


 驚きゼロだったからこの感じか。


「でもお祝いはしたいから、後でみんなとしましょ。初音も来るわよね? って、パワハラじゃないわよ?」


 このご時世だからか、冗談っぽくではあるが真面目な表情で雹菜はくなはそう言った。


「うん、大丈夫。でも、ちょっと家族心配」


「妹さんと弟さん、お母さんね? うーん……そういうことなら一緒にお祝いに来る? 初音のお祝いでもあるんだし、ご妹弟やお母さんが参加してもおかしくないわよ」


 雹菜がそう提案した.


「……いいの?」


「全然構わないわ。うちって割と名前知ってもらえるようになったけど、結局まだまだ全然小さいギルドだしね……。メンバーもみんな友達みたいな感じって言ったでしょ。あぁ、やな感じの奴はいないわよ。子供にもみんな優しいはず……そうじゃないのがいたら私がぶちのめすからその辺も安心して」


「そこは心配してない。メンバー、大体会わせてもらったけど、みんな優しい」


 初音はもう、大抵のメンバーと顔合わせしている。

 会えていないのは、顧問の二人だな。

 特に梓さんは神出鬼没すぎて俺たちですらいつどこに現れるのかわからない。

 一応スマホも持ってるのだが、気が向かないと出ないし、かと思えば向こうからかかってくる時もあるし、俺たちに御せるような人ではないのだ。

 そのくせ、肝心な時にはいつの間にかそこにいたりするし……。

 先輩オリジンのヤバさというものを感じるな。

 あぁ、そういうことを考えるとあれだ、お祝いとかパーティーとか、そういう時には気づいたらいたりするから、普通に今回来るかもしれない。

 その辺の食い物頬張ってるのに突然気づくんだよな……。

 ほとんど妖怪みたいな人だ。


「なら良かったわ。ただ《転職の塔》の攻略が迫ってるから、すぐにした方がいいわね。出来れば明日にしたいから、家に帰ったら予定聞いておいてくれる?」


「うん、分かった」


「あとは……あぁ、そうそう。初音はうちにとっての初めての斥候系だから、今後色々と活躍してもらうつもりなの」


「……? うん」


「で、しばらくしたら、北海道の魔境調査に私たちは向かう予定なのね。そこに一緒に行ってもらいたいのだけど……どうかな? これも全然強制じゃないわ。かなりの危険があるし」


「魔境? 行けるの?」


「政府や大規模ギルドが主体になって、かなり大きな計画を立てて、ね。そこにちょろっとついて行かせてもらう感じ?」


「簡単に言う」


「実際には言うほど簡単ではないけどね」


「うーん……危険手当は?」


「いっぱい付けるわよ。考えたくもないけど、仮に初音が死亡した場合、あなたのご家族がこれから先、生きていくのに全く問題ないくらいのね」


「それっておいくら?」


「耳を貸して」


「……うん」


 そして、雹菜の口に耳元を寄せ、雹菜が金額を言ったのだろう。

 初音は目を見開き、そして満足そうな表情で、


「……行く」


 と言った。


「ありがとう。でもまぁ、もちろん絶対に死んでなんてほしくないから、初音には在らん限りの装備品や魔道具を渡すわ。それにその日までしばらく修行ね。慎くんと美佳……うちの腕利きをつけるから、彼らと迷宮に潜って、C級程度の実力までつけてもらうわ」


「……そんなにすぐ出来るの?」


「出来るはずよ。たまに創にも参加させるから」


「創? 分かった。強くなれるなら理由はなんでもいい」


「じゃあよろしくね」


「うん」


 そういうことになったのだった。

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