第523話 合格
数日後。
「……受かった」
初音が五反田のギルドビルの談話室でそう言った。
手にはスマホが握られており、昇格試験の発表を行なってるWebサイトが開かれている。
そしてそこにはしっかり、初音の受験番号が表示してあった。
「俺も受かったぞ」
もちろん、俺の受験番号もある。
「知ってる。聞いたから確かめておいた」
「覚えてたのか。まぁ四桁だし、そんな忘れないか」
昇格試験の受験者が一万人を超えたりするようなことはまずないので、受験番号の数字の桁も小さい。
日付とか年とかが一応識別のためについてるが、そこの部分は共通だしな。
「これでD級。お金儲かる」
「……初音にとってはやっぱり金が大事だよな」
「うん。家族のため頑張る」
「正しい姿勢だ」
「そうなの? お金お金って言ってると、結構軽蔑されることある」
「あー、でもそういうのって低ランクの連中だろ?」
「うん、同じくらいのランク。E級?」
「だよな」
「ランク上がると言われなくなるの?」
「というか、言わなくなるというか、言っても意味がなくなるというか……」
「どういう意味? 分からないから教えて」
と首を傾げて言われたので、俺は答える.
「俺の周りだと、
「うん」
言いながら、考えてみると数年前ならまず考えられなかった状況にいるんだな、としみじみする。
あの頃の、冒険者になれるかどうかすらはっきりとしなかったあの時代と、今の俺とは置かれている状況がまるで異なる。
俺は続ける。
「そういう人たちって、全然お金に困ってないんだよな」
「それは当然。高位冒険者は稼げる。車も高級車ばかり。家は豪邸。ウハウハ」
「そうそう。そしてそんだけやっても余る。しかもそうやってせっかく買ったものもあんまり使わないらしいんだよな。移動に使うのは社用車ばかりだし、家だって寝るために帰るだけだ。食事なんて迷宮で食べるための保存食の方が多い、みたいな、な」
まぁ、高級品も結構食べるとは言うが、そういう時は冒険者関係のお偉いさんとかとの会食とか、そういうところになるから経費だという。
自分の金で、わざわざいい暮らしを買う、ということが本当にほとんどないらしい。
それをするよりも、とにかく迷宮を先に進む、魔物を倒す、それに全てを賭けている人たちなのだ。
「……なんだか夢がない……」
「迷宮探索それ自体が夢、みたいな人たちだしな。それに、人類の手に、この世界を取り戻す、みたいな使命感を持ってる人も多い。まぁS級になってくると、もはや何を考えているのか分からないみたいだけど」
S級には俺はいまだに実際に会った事がない。
世界でも数えるほどしかいない人たちだ。
日本でも数人いるのだが、彼らは自分の目的のため以外には動かない。
そして自分の目的、というのが通常人には理解できない。
A級が実質、冒険者業界を動かしているというイメージが強いな。
そこまでネジが外れてないとS級になんてなれないということかもしれないが。
「それはちょっとかっこいい」
「な。尊敬すべき人たちだよ。雹菜も含めて。そしてそんな人たちが金のことなんかどうこう言わないってこった」
「気が楽になった」
「まぁそうは言っても、低ランクのうちはやっぱり金にもこだわらないと見入り少なくなりがちだしな……とりあえず、資格手当増やしてもらわないと。雹菜に報告に行こう」
「うん」
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