第256話 魔術と魔法

「……ええと、どこから話したらいいでしょうかね……」


 街から出て、少し離れたところにある開けた場所で、ミリアがそう言った。

 他には俺と、エリザがいる。

 今日は、俺がミリアから魔術の基礎を学ぶつもりで、今、彼女から説明を受けようとしているところだ。

 ただ、その段になって、ミリアは何から説明すべきか悩んでいるようだった。

 彼女自信はカーク村村長である父から基本を学んだようだから、その時と同じようにしてくれればいいと思うのだが……。


「ミリア、あんまり肩肘張る必要はないさ。まず言葉の説明からとかはどうだ? 私も昔、村長からその辺りから説明された記憶がある」


 と、エリザが助け舟を出すと、ミリアは頷いた。


「そ、そうだね……じゃあ、まずは魔術と魔法から。ハジメさんはこれの違いをなんだと思いますか?」


 本当に最初からなんだな、と思ったが、同時に、言われてみると確かに考えて来なかったことだ。

 地球だとその辺はかなり曖昧だったし。

 そもそも地球においては、スキルを基礎において術を説明することが多く、そもそもその術自体はなんなのか、みたいな話はあまり聞かない。

 だから悩んでしまったが、とりあえず何か言わなければ始まらないだろう、と思ったことを言ってみることにした。


「ええと、魔力を操る術が、魔術で、魔力の……法?が魔法……ってなんだか変な説明になっちゃったな。違うか」


 するとミリアは、


「いえ、当たらずとも遠からずというか、いい線いってると思いますよ」


「え、本当か?」


「ええ。特に魔術はほぼ正解ですね。魔術は、魔力を操ることによって、魔術回路を作り出し、異界から現象を取り出す術だとされています。魔法は、魔力そのものの理で……どう動くか、どういう性質があるか、とかそういう法則のことですね。ただ、魔法についてはもう一つ意味があって、魔術では実現出来ない、魔力によって起こる現象とか、特別な力なことを言ったりすることもあるので、こっちは使われている時と場合によります」


「なるほど……わかったようなわからないような。そもそも魔術回路ってなんだ?」


「これについては……そうですね。例えばこんなものです」


 そう言って、ミリアは地面に何か図形を書き出した。

 簡単なもので、円に三角形を複数組み合わせたようなものだった。

 そしてそれに対して、杖を使って魔力を流し込む。

 すると図形に魔力が通り、その直後、ポッ、と炎が図形の中心に出現した。

 それは数秒の間、維持されて、消えていった。


「……この図形が、魔術回路ってことか?」


「そうですね。この魔術回路に魔力を流す、もしくは魔力そのもので魔術回路を作る、という方法でもって、人は魔術を操ります。それが最も基本で……ただもちろん例外はあるんですけど、とりあえず今はそういう風に理解しておいてもらえればと」


「分かった。でもこれなら……誰でも魔術師になれそうな気がするけど」


 少なくとも、今の火を灯す魔術については簡単そうで、俺でもすぐに実践できそうに思えた。

 しかしミリアは首を横に振る。


「そうも言えないんですよ。まず、体外に魔力を出す為には、才能と道具が入ります。まずこの才能が非常に珍しくて……数千人に一人、と言われるほどです。実際にはもう少し多いような気もしますが、冒険者ギルドとかには集まりやすいですからそう感じるだけかもしれませんね。ともかく、ハジメさんが魔術を使う為には、この才能があるかどうかを調べる必要が……」


 ミリアがそんな説明をしている中、俺は自らの魔力を操り、消えてしまった火の魔術回路に自分の魔力を流し込んでみた。

 すると、


 ーーゴォォォ!!


 と、火柱が上がる。

 それを見たミリアとエリザが、


「えっ、な、なぜ! ハジメさん、何かしたんですか!?」


「《小火》の魔術回路でなぜこれほどの炎が……とにかく魔力を注ぐのはやめるんだ!」


 と言ってきたので俺は慌てて魔力を止めた。

 すると、すぐに火は消える。

 そして俺は二人に、


「わ、悪かった……」


 そう言うしかなかった。

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