第255話 土産に

 ミリアの質問に、俺は頷いて答える。


「あぁ、《無色の団》ってギルドに所属してる。あんまり人数は多くない、零細ギルドだけどな……一応俺ですら創設メンバーだし」


 すると、二人とも驚いたような表情で、


「創設メンバー! それはすごいですね。商会のようなものだというお話でしたけど、こっちでは立ち上げるのに相当な資金やコネが必要だと言われてるんですが……ハジメさんの世界では……」


 これには少し悩んだが、まぁ大雑把に言えば……。


「必要だろうな。資金はもちろん言わずもがなだけど、コネ……というより資格が必要になる。俺の世界だと、貴族とかそういうものがいないから、後ろ盾がどうこうってよりも、公的な資格が重要になってくるんだ。これがすごい難関なんだけど……まぁ、うちのギルドリーダーとにかく優秀な人でさ。資格も資金も、それこそコネだって全て持ってて……思いついてからすごく短い期間で立ち上げてしまったよ。経営も軌道に乗ってて……」


 でも、今はどうなってるんだろうな。

 まぁ、俺がいなくなったくらいでどうにかなるような経営ではそもそもないのでそこは心配する必要はないだろう。

 大した素材だって俺はまだ入れられてないし、ほとんど雹菜自ら狩ってきた素材やアイテムの売買益で成り立ってる。

 ただ最近は、メンバーも増えてきて、彼らの稼ぎも増えてきてるから雹菜の負担はかなり減っていた。

 入団したいという問い合わせもかなりあって、その気になればもっと大きなギルドにすることも出来る。

 だが、今はまだ、メンバーたちの実力を伸ばす時期であり、拡大するには早いということで新人の受け入ればほとんどしてないのだった。

 もちろん、イレギュラーな入り方をするメンバーはポツポツいるわけだけど、他のギルドのように正式な募集にはまだ遠い。

 事務員とかそういった人員については増やしたほうがいいだろうってことにはなってたけどな。

 あぁ、考えてみると、書類仕事はかなりの量を俺がやってたから、そういう意味では困ってるかもな……。

 やっぱり、早めに戻ってみんなに会いたいところだ。

  

 そんなことを考えていると、


「……やはり、故郷が恋しいのだな」


 と、エリザが少し寂しそうな表情で言う。


「ん? どうしてだ」


「いや、今、多分、故郷のことを思っているのだろうと、そういう顔をしていたからさ。ずっとこっちの世界にいてくれたら嬉しいんだが……そうも言えんな。まぁ、戻れはするようだから、二度と来ないみたいなことは言わないでくれとは言っておくか」


「二度と来ないなんて、そんなことするはずないだろ。異世界とか俺の世界だと結構憧れの存在なんだぞ。まぁ、魔物はうちの世界でも珍しい存在じゃなくなってしまっているけどな」


「む? 何か引っかかる言い方だな」


 首を傾げるエリザとミリアに、俺はうちの世界の事情を説明した。

 元々魔物も魔術も空想上の存在で、それが現実化したのはごく最近であることを。

 それを聞いて二人は驚いていたが、


「面白いものだな。まさに異世界ということか……しかしそういうことなら、ハジメにもこちらの世界で学ぶべきこと、知りたいことがあるというのは分かるな。特に魔術についてはこの世界の歴史は長い。数千年はあると言われているし」


「それについては俺も色々学びたいと考えてたよ。まぁ、まだ基礎もしれてないが。ミリアに少し教えてもらう予定だったろ? まずは帰るまでの間に、それくらいは教えてもらって身につけていきたいなと思ってる」

 

 ミリアは武器も使えるが、基本的には魔術師である。

 そして、彼女が使える魔術の系統が、俺の世界だと珍しいとされるものだった。

 それはつまり、いわゆる補助魔術、というものだ。

 バフデバフの専門家なのである。

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