第257話 闘気

「……それで、今は結局何をしたんだ? ハジメが何かしたというが、見たところ、発動体……魔術を使うための起点になる道具も持っていないようだし。でも、ハジメ以外の誰かがしたとも考えられん。ミリアは当然何もしてないわけだろう?」


 とりあえず火柱が収まり、周囲への延焼の危険もないくらいに熱もなくなってから、エリザが溜息混じりにそう言った。

 ミリアはエリザの言葉に頷いて答える。


「私は何もしてないよ! というか、このくらいの魔術回路じゃあ、あんなに大きな炎は出せないもの。なのにハジメさんは……?」


 じとっとした目で見られて、俺は反応に困る。

 ただ、やったことについては素直に認めるしかない。

 俺は二人に説明する。

 オリジンとして、道具無しに魔力を体外に出せることは、梓さん曰く特殊なようなので言うべきかどうか迷ったが、この二人には色々話しているのだし今更だろう。

 

「……俺は魔力を道具無しに自分の体外に出せるんだよ。だからそのまま魔力をその魔術回路に注ぎ込んだだけだ」


「ええっ!? そんなこと、宮廷魔導士でも出来ませんよ!?」


「ハジメは本当にびっくり箱だな……まだ色々隠してることがあるんじゃないか?」


「別に隠してたというほどのつもりはないんだけどな。何が常識なのか、分からないから聞かれなきゃ話してないことはいっぱいあるかもしれないけど……」


 まぁ、オリジンについては慎重に扱おうとは思っているから、隠してたと言われれば隠してたことになるか。

 でも他には意図的に内緒にしてることは多分、もうないと思う。

 

「……ハジメに何か聞くときは、よくよく考えねばならないな……余人がいるところでまずいことを言いそうな気がしてきた」


 エリザが考えるようにそう言ったが、


「流石に俺もその辺は気にするって。最低でも、まずそうな話をするときは二人に耳打ちでもしてからにするさ」


「本当か? ……まぁ信じておこう」


 冗談まじりにそんなことを言ったエリザだった。


「ところでさっきの話に戻りますけど、体外に魔力を道具無しに出せるって、本当なんですか? ちょっと見せてみてくださいよ」


 ほら、ジャンプしてみろ、みたいな不良のような言い方をするミリアだった。

 とはいえ別に出したところで何か損する訳でもないので、


「あぁ、分かった。ほら」


 そう言って魔力を練り込み、体外に放出する。

 もちろん、このまま魔術回路につなげるとさっきの二の舞なので、体の周りに出してグネグネ動かしてるだけだが……。

 というか、そもそも二人にはこれが分かるのだろうか?

 魔力を見られるのは向こうの世界では特殊な才能だった。

 まぁ、気配のように感じ取ることはそれなりの冒険者なら出来る訳だが……。

 そう思っていると、ミリアは、


「……確かに体の外側まで魔力の気配がありますね……本当みたいです」


 と言ったので、別に見えているとうい感じではないようだ。

 そこにあるのは分かるが、あくまで気配として、ということだろうな。

 しかし、精度は結構高そうである。

 この辺は、こっちの世界特有の技術だろうか。

 だとすればかなり有用だな。


「私にはミリアほどはっきりは分からないが、確かに魔力を感じるな……しかし、発動体なしで魔力を体外に出せるというのは羨ましい話だ。そうなると、一人で剣士も魔術師も兼ねられるな」


「普通は出来ないのか?」


「武具を発動体に兼ねることは出来るが……使い所が難しいからな。魔術を使いながら前衛もしてる戦士というのは多くはない。一流どころはやっているが、流石に簡単になれるものでもない」


「でも戦うときは、身体強化とかはするだろ?」


「ん? 戦士が使う身体強化は、いわゆる闘気術の範疇だからな。魔術とは異なる……まぁ、魔力も使うのだが。こちらについては体外に魔力を出す必要はないから、発動体は不要だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る