第258話 身につけ方

「……闘気術、か……。それってどんなものなんだ?」


 闘気、なら確かに向こうにもある。

 ただ、それはそもそも魔力自体と異なるエネルギーであり、あずささんたちが使うような霊力のように、根本から魔力とは違うものだ。

 しかし、エリザの言う闘気術、というのは魔力を使うらしい。

 この違いがどのあたりから出ているのか、俺はそれが気になった。

 これにエリザは言う。


「どんなもの、と改めて言われると言葉で説明するのは難しいのだが……見てみるといい……はぁぁぁ!!」


 エリザはそう言って、気合の入った声を上げる。

 すると……。


「……魔力が……変質した? それが身体中に回って……いや、構成は比較的簡単なものだ……魔術の身体強化系よりもずっと……」


 俺の目には、そう見えた。

 少なくとも、魔力が使われているのは間違いないようだ。

 そして、エリザは剣を抜いて、その場で軽く演舞をする。

 彼女は武術についてはカーク村にいた、引退傭兵から基礎を学んだらしく、それなりに様になっているのだが、闘気術を使った状態でのそれは通常の状態とは動きが違った。

 素早く、力強くなっていて、なるほど、これならば魔物相手に十分に立ち回れると確信できるくらいのものだ。

 魔術を使わずとも、自らの肉体のみで強大な魔物ともやりあえるわけだ……。


「……ふう。分かったか? 今のが闘気術だ」


 エリザがふっと力を抜くと、体に回っていたそのエネルギーもまた霧散する。

 俺はそんなエリザに言った。


「あぁ、どういうものかは分かったよ。でも、どうやって使うんだ? 魔力がなんだか、普通の魔力とは違ったものに変わっていたように思うんだが……」


 するとエリザは、首を傾げて、


「……そうなのか? その辺りは私には良く分からんのだが……」


「じゃあどうやって身につけたんだ……?」


「闘気術は理屈を積み重ねて身に着ける訳ではなく、修行を繰り返して自然に身についていくものだからな……私の場合も、毎日剣を振るい、座禅を繰り返し、そしてある日気づいたら出来ていたよ」


「……それで任意に使えるのか?」


「これが不思議なものでな。身につくと、まるで使い方を忘れんのだ。歩き方を忘れることなどないようにな。そんな訳だから、どのような理屈で、と言われると私に説明は……歩き方の説明をするのは、難しいだろう?」


「確かにな……」


 言葉にしようと思えば不可能ではないだろうが、聞いたからって出来るものでもない。

 本人も細かな動きを意識している訳ではないから、どうしても抜けが発生するだろう。

 しかし、俺の場合は、彼女の魔力の動きをはっきりとこの目で見ることが出来た。

 だから、練習すればあるいは……。

 魔術による身体強化は、体内に巡らせる魔力の動きが複雑すぎるが故に、まだ下級身体強化までしか出来ていない。

 けれど、こちらの闘気術であれば、なんとかなりそうに思えた。

 特に最初の、魔力をなんらかの方法で変質させるやり方……あれを出来るようになれば、その他の部分は大したことがなさそうだ。

 その部分が難しいのだろうが……。


「興味があるなら、修行方法を教えるぞ?」


「……素振りをしたり、座禅を組むことなんだろ? それを延々と繰り返すと」


「ははは。そうなんだがな。その上で、身につけられるかどうかはその者の才能による。一年で出来るようになるものもいれば、十年二十年かけてやっと出来るようになるものもいる。こればかりはやってみないとなんとも言えん」


「エリザは?」


「私は早い方だろうな。三年ほどできっかけは掴めた。ただ、その後は使える闘気の量を増やしていかねば強くはなれんから、そこからも遠い道なのだが」


「闘気はどうやって増やすんだ?」


「これは様々だな。さっき言ったような修行や、魔物と戦うこと、また薬草を飲むことなども含まれる。千差万別で、どれが正解とも言い切れん。魔術よりも感覚的なところが多くてな。ただ、考えるのが得意でない私のような戦士には、むしろありがたい力だよ。魔術は正直、最低限のものしか使える気がせんからな……」

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