第333話 名前

「……待ち合わせなんて久々な感じがするな。向こうにいた一月が濃密だったからかなぁ……なぁ、みぞれ


「キュッ」


 池袋駅で、霙……従魔の子竜と二人で待っていた。

 子竜の名前は、昨日、別れる前に決めたのだが、これも一悶着あった。

 というのは、静さんはこの霙のステータスを見られるわけだが、名前部分の表示がよく見えない、ということだったからだ。

 文字化けしているような、モザイクがかかっているような、妙な見え方をするらしい。

 それで、それは名前がないからではないか、という話になって、じゃあということで霙という名前をつけたのだが、ステータスには反映されなかった。

 本人……本竜か?が、納得していないからそういうことになるのかも、と考えてもみたのだが、霙の名前で呼べば近づいてくるし、だいぶ気に入っているように見えるのでそういうわけでもなさそうだった。

 何か理由があるのだろうが……これもな、やっぱりよく分からないので放置ということになる。

 ただ、名前がないのも不便だし、可哀想だからこの子竜の暫定的な名前は霙ということになった。

 ちなみになぜ、霙なのかと言えば……。

 そもそも名前をつけるなら飼い主というか、主である俺がつけるべきだということになったのだが、何とつけるべきかだいぶ悩んでしまったのだ。

 子供に名前をつけるとか考えるような年でもないし、かといってペットとかいるわけでもないからな。

 何かに名前をつけるなんて想定をしたことがなかった。

 そこで、みんなで案を出してくれないか、ということになり、最終的に良さげだったのが、雹菜の提案した霙だったわけだ。

 なぜ彼女がその名前を提案したかと言えば、彼女の一族というか、家系は、天候から名前をとることが多いらしい。

 雹菜は雹だし、姉である雪乃さんは雪だ。

 それに彼女たちの母親は氷雨ひさめさんと言ったらしい。

 なので、そういう単語から考えて、響きが可愛らしいから、というのと、霙の体の模様が、少しグラデーションがかった白色がところどころに見えるので、そこから溶けかかった雪を想像したという。

 まぁ、霙に関しては雹菜も魔力を注いだわけだし、そこからすると彼女にも名付けの権利もあるだろうし、その上、霙自身が気に入ったようだった、というのもあって、これに決定したのだった。

 

「……しかし遅いな二人とも。時間はもう過ぎてるはずだけど……霙、その像の上に乗っかるのはやめておきなさい。仲間じゃないからな」


 オブジェというか、待ち合わせ場所として有名な像は霙にとってちょうどいい腰掛らしく、ちょこんと乗っかってる姿は可愛いが、壊してしまったら恐ろしい。

 まぁ、霙の体重は正直見た目ほどじゃないというか、多分、一般人が抱き上げても大した重みも感じないだろうというレベルなので問題ないとは思うが。

 結構サイズ感はあるのに、不思議だ。飛べるから、そのために鳥の骨のように中身は空洞の割合が大きいのだろうか?それとも他の理由か……?


 そんなことを考えていると、なんだか周囲の人通りが混み始めた。

 

「なんだ? 急に一体……」


 キョロキョロとあたりを見回していると、なぜか人々の視線は一方向に固定されていた。

 そちらから人混みが近づいてくるような……。

 観察していると、


「あっ、創ー!! いたいた!」


 と言う声が聞こえ、微妙にジャンプして顔の上半分だけ覗いている雹菜の姿が見えた。

 そして彼女の隣には、雹菜よりもそこそこ背の高い静さんの姿もあったが、彼女もまた、ちょこちょこジャンプしている。

 そうじゃないと見えないくらいに人混みが……。

 まぁ、場所が分かれば問題ないわけだが、一体これは……?


 そう思っていると、雹菜が、


「すみません、待ち合わせしているので離れてもらえますか!? これから攻略で……!」


 と少し大きめな声で言い、その直後に、集まっていた人々はスッと綺麗にはけていき、消えていった。

 それでやっと俺は、その人々が雹菜たちを目当てにあんなに集まっていたのだと理解する。


「ごめん、時間かかっちゃって」


「あんなに丁寧に接してたら、それは遅れますよ……」


 雹菜と静さんがそう言ってこちらにやってきたので、


「人気者だな、二人とも」


 俺は少しの揶揄い混じりにそう言った。

 すると雹菜は胡乱な視線をこちらに向けて、


「……あれは私だけじゃなくて、うちのギルドのファンみたいなのも混じってるから、そのうち顔と名前が知られたら、創にも群がるわよ。気をつけることね」


 と言ってきたので、俺は目を見開く。

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