第139話 課題

「お、着いたみたいだな」


 バスが二十分くらい進み、停車する。

 窓の外には、先に止まったバスから降りていく受験者たちの姿が見えた。


「うん。僕たちも降りよう」


 そして、受験者たちが向かっていく方向に進んでいくと、そこには少しひらけた空き地のような場所があった。

 その向こうには、空間が歪んだような穴が存在していて、頑丈そうな建造物でまるで守られるような形となっていた。


「……《三鷹第一ダンジョン》、通称《瘴毒の穴蔵》だね、ここ。まさかこことはなぁ……」


 ここで俺たち受験者は初めて受験会場となる迷宮を知ったわけだ。

 周囲の冒険者たちを観察すると、彼らもまた、樹と同じように、あちゃあ、という表情で天を仰いでいる。

 その理由は明らかだった。


「諸君! 私が本日の試験を担当する試験官の加藤玄かとうげんだ! 早速だが、皆の困惑は理解してる。この迷宮……《瘴毒の穴蔵》は三鷹に存在する三つのダンジョンの中でも、最も攻略が難しいと言われるところだからだ!」


 集まった冒険者たちに、大声でその人は叫んだ。

 前方の少し高い位置にいるようで、何かの台に登っているのだろう。

 俺たちの位置からはあまり見えないが。

 加藤と名乗ったその人物が言った通り、《瘴毒の穴蔵》は難しいことで有名だった。

 その理由は単純で、主に状態異常系の攻撃を主体とする魔物が多いからだ。

 もちろん、それだけではないが、治癒する手段や防御する方法を身につけていない限り、攻略は困難を極めるとされる。

 とは言っても、今ではある程度のセオリー、攻略法も確立されつつはあるが、それまでに出た犠牲は数えきれない。

 いきなりF級が挑むことに適切な迷宮ではないだろう。

 しかし、試験としては……。


「だが! こここそが、諸君の実力を試すに相応しい! 確かに状態異常を多く受ける可能性があるだろう。だが、対処法は存在する。知っての通り、E級からは、そういった危険を前提とした依頼も多くなる! それを想定して迷宮に挑めない冒険者に、E級に上がる資格はない!」


 その通りの話だった。

 F級がこなせる仕事は単純な素材採取に過ぎないが、E級からは冒険者として、とりあえず一人前として扱われる。

 そしてそうである以上、どのような依頼であっても挑める心構え、準備を事前にしておく必要がある。

 E級昇格試験に対しても、そのような依頼に挑む気持ちであることが必要だった。


「……それでも、ここはちょっと辛いと僕は思うけどな。まぁ、僕はなんとでもなるけど。むしろ有利かも。創は大丈夫?」


 樹がボソボソと尋ねてくる。

 彼が大丈夫、というのはその治癒術師としての力があるからだ。

 俺は……。


「まぁ、対策はいくつかあるから心配はしてない。ただ、こういう迷宮って、かなり臭いとかひどいらしいって聞くし、呼吸も辛いっぽいからな……その辺はなぁ……」


「あぁ……それはどうにもならないよね……簡易防毒マスクでもするかな……」


「そんなもの持って来てるのか」


「まぁ、必需品とは言わないけど、あったほうが便利だからね。魔力の消費も防げるし」


「樹は普通に合格しそうだな」


「創もするでしょ?」


「どうだかなぁ……お?」


 話しながらも、加藤の説明を聞いていたが、彼の話がついに試験概要へと移る。


「今回の試験は《パーティーによるボス討伐》だ! 細かな指定は特にない! だが、知っての通り、この迷宮には一度に入場できる人数に限りがある。最高で四人! その範囲内で、パーティーを組み、第三階の目的地に存在するボスを討伐するのだ!」


 そこで受験者の一人が、


「合格基準は!? 倒せば合格ですか!?」


「倒し方や、到達の仕方だ、状態など総合的に判断する! そこは各々、自由に行ってほしい。詳細については答えられないが、合否を連絡する際に講評は行うから、公平性については心配しないでほしい! では、パーティーを組み、目的を果たしてくれ! 未来のE級冒険者たちよ!」


 そう言って、加藤は壇上から降りた。


「……随分と仰々しい人だったけど、雰囲気はあったな」


「創知らないの? あの人、そこそこ有名なB級で、あのキャラで受けてるんだよ」


「えっ。そうなのか……まぁそれはいいか。それより、樹。パーティーなんだけど……」


「うん、もちろん組もうよ。あと二人増やせるけど、どうする?」


「あー……樹は三層くらいまでの魔物の麻痺や毒は治癒出来るか?」


「それくらいなら。流石に十層と言われると辛いけど」


「そうか。ならまぁ……でもあと二人、探してみたほうがいいかもな」


「うん。周り、もう勧誘合戦だしね」


 見てみれば、周囲の冒険者たちは手当たり次第に色々な人に声をかけていた。

 そんな中の一人が、樹の肩をガッと掴む。


「痛っ……」


「お、お前、俺たちと組まねぇか!? こっちは重戦士二人だ! そっちの兄ちゃんは……弱そうだし、いいかな」

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