第170話 解決方法

 俺の話を聞き、全員が驚いているようだった。

 しかし、その中でも当然、最も驚いた表情をしているのは当の本人である静さんだった。

 しばらく呆けたように目を見開いた後、ハッと我に返ってから、俺の方に顔を近づけて、肩を掴ガクガクとさせて、


「そ、それはつまり……《万物鑑定》のせいということ、ですか……? いえ、ステータス1になったのは、それを得てからなので《万物鑑定》のせいなのは分かってはいたのですが……」


 まぁそれはそうだろう。

 その上で彼女が聞いているのは、どのように影響してそうなっているのか、という話だ。

 俺は答える。


「俺にはスキルが、魔力の動きや形として見える。それは時には血管を流れる血液の流れのようだったり、もしくは複雑な紋章のようなものだったりする。それに最近だと、強力なスキルはどうも複雑かつ立体的な回路のようにも見えることがあるな……。で、静さんの体の中には、その一番最後、非常に複雑で立体的な回路が魔力で形成されているのが見えるんだ」


「ですが……そういうことなら、スキルを持っている者は皆、そのようなものがあるのではないですか? なぜ私だけステータスが1に……」


「正確な理由は分からないけど、スキルっていうのは常に発動してるわけじゃないのが普通なんだ。そういう時は、その魔力の流れや紋章は体の中に存在しない。スキルを使う段階で、初めて形成されるんだ。それなのに、静さんの体の中には、会った時から、そして今の今に至るまで、ずっとその回路が見える……そして、魔物を倒した後の魔力は、その回路にあっという間に吸い取られてしまって、静さん自身のものとは少しもなっていない……ように俺には見えるんだ」


「そんなことが……しかし、だったらどうやって……」


 俺の話を聞いて、静さんは頭を抱えてしまった。

 雹菜が俺に、


「それにしても本当に? 私には全く見えないんだけど……いえ、目を凝らしてみると……凄く細い糸みたいな光が見える……かも……?」


「おっ、そうそう。それだ。で、その糸は糸じゃなくて、物凄く細かくそれで紋様が描かれてる。今の俺には、絶対に真似できないような細かさだよ……」


「あの中に、紋様……? ダメね、さっぱり見えない。真似できればアーツで再現できたかもしれないのに……ま、いつの日か、ってところかしら? それにしても、どうにかならないものなの?」


「うーん……いくつか方法が浮かんでないわけじゃないんだけど……」


「なら試してみる?」


 樹が軽くそう言ってきた。


「え? いや、どうしたもんかな。俺もまだ成功したことがないから、大失敗という可能性が……」


 その方法とは、原理的には簡単なことだ。

 俺は、自分自身のステータスを、魔力を無理やり自分の魔力と同化することで上げることが出来る。

 それを彼女に対してもやるのだ。

 他人のステータス強化は以前からたまに挑戦してはいるのだが、これがなかなか難しくて難航している。

 ちなみに相手は雹菜で、彼女はB級冒険者であるため、普通の冒険者よりもずっと肉体的にも精神的にも頑強だからだ。

 そうそう簡単に爆散したりしないだろう、という信頼があるからだ。

 しかし……。


「私でもまだ成功していないものね……」


「そうなんだよな……理由は何なんだかわからないけど。ものすごい抵抗に遭うっていう感じで……出来なさそうって感じでもないんだけど……」


 なんとなく出来る感じはするのだ。

 でも、出来てない。

 そんなもどかしさのある手法である。


「二人で分かり合ってるけどそれってどういう方法?」


 樹に聞かれたので軽く説明すると、樹は驚いたように言う。


「ステータスの増加を人工的に起こす手法がある? それって大発見なんじゃあ……」


「でもまだ、他人には出来てないぞ」


「自分には出来てるんでしょ? それだけでもとんでもないことだけど。でも、静さんには……」


「そうなんだよなぁ……できるかどうか」


 そんな風に話していると、静さんもついに再起動したようで……。


「ちょっとその手法、試してみてくれませんか?」


 と言ってくる。


「なんだ、聞いてたのか? てっきりショックのあまり何にも耳に入っていないのかと」


「途中から何だか方法はないことはないみたいな感じのことが聞こえてきたので、その辺りから。希望があるなら試したいんですよ……どうか!」


 人体実験じみた手法だ。

 あまり気は進まない。

 しかし、静さんは必死な様子でこちらを見ている。

 俺は雹菜と樹と目を合わせるも、二人とも「やってみたら?」「やるしかないんじゃない?」という顔をしていた。

 まぁ、そうだよなぁ……。

 

「……成功したことないんだぞ?」


「分かっています」


「……いきなり爆散するかもしれないぞ?」


「息があると確認できる限りは、回復薬でもなんでもバシャバシャかけていただければそれで……死んでしまってもその時はその時です」


「覚悟が固いな……わかったよ。まぁ、多分本当に爆散したりはしないと思うけど、結構苦しいと思う。雹菜にも試してもらってるんだけど、なんか異物感がすごいらしくてな」


「まぁそれくらいなら……どうぞよろしくお願いします」

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