第171話 挑戦
と言っても、まずは魔物を倒すところだろう。
俺が出来るのは、あくまでも魔物のエネルギー……そこから噴き出す魔力を操り、それを自分と同化させるやり方なのだ。
他人にやるにしても、まず元のエネルギーがなければ仕方がない。
先ほど静さんが倒したコボルトメイジのそれは、もうすでに霧散してしまったからな。
まぁ、別にこの手法による場合、本人が倒さなければならないわけではないのだが……。
「いえ、次も私が倒しますよ」
静さんがそう言った。
「いいのか? 別にみんなで倒したって一緒だけど」
「もしかしたら私のステータス、上がるかもしれないわけでしょう? 記念すべき最初の魔物は、自分で倒したいじゃないですか」
「なるほど……確かに」
俺が納得すると、雹菜や樹も頷いて、
「私も、ステータスを上げるため、とかじゃないけど、最初に魔物を倒した時は嬉しかったわ。ステータス上昇が一緒に確認できたら、一入でしょうね」
「僕の場合は逆に寄生してスキル取得するように強制されてたから、迷宮はいって最初くらい自分で倒したいものだなって思ったなぁ。あの後悔は一生残るから、その方がいいね」
「樹はなんでそんなことに……ってあれか。その出自の故か」
樹は星宮家の跡取りなのだ。
巨大な資産家一族の跡取りにそうそう危険なことをやらせるわけもない。
その結果としての、と言うわけだろう。
ただ、それを言ったら今はどうなのかという気がするが、どうにかしているのだろうな。
俺の言葉に樹は頷いて、
「まぁ、そういうこと。腕の立つ冒険者を家で雇って、それに護衛されながら迷宮に潜って、スキルを取得する……のが僕の最初の迷宮探索だったね。普通じゃないよ」
「俺からすると楽そうでいいけどな」
「冒険も何もあったもんじゃないよ? 冒険者ってそんなもんじゃないじゃない」
「それはまぁ、わかる気がするけど。ま、そういうの聞いてると確かに最初は静さん自身が倒した方がいいだろうな」
「そうそう。でも、危険な魔物も出る可能性があるから、そういう時は静さんに下がってもらってた方がいいね」
静さんはその言葉に、
「それは流石にわかっています。率先して死にたいわけではないですから」
「まぁそうだよな。じゃ、早速魔物探しをするか」
「はい」
*****
「よし、じゃあ始めるぞ」
静さんが倒したコボルトナイトの遺体から魔力が浮き上がってくる。
俺はそれを捉えながら、静さんに言った。
彼女は緊張した面持ちで、しかしはっきりとした声で、
「……はい、お願いします!」
と言った…
俺はそれを確認して、魔力を静さんの方へと持っていく。
ちなみに倒した直後に上がってきた魔力は、やはり静さんのスキルを形成してると思しき魔力の流れに吸い込まれて消えたことを確認している。
人工的な方法によらなければ、彼女のステータスを上げるのは難しいだろう。
そして、魔力を静さんの中へと導いていく。
雹菜に対してこれをやった時は、恐ろしいほどの抵抗が魔力の流入を阻んでいた。
果たして静さんの場合は……。
「……ん、あれ? おかしいな……」
予想に反して、魔力はするすると静さんの体内へと入っていく。
そしてそのまま、スキルを形成していると思しき魔力の流れに引っ張られそうになる。
「おっと、まずい。それじゃあダメなんだよ……」
そちらに同化しないように引き留め、それから静さんの魔力の感触、形を確認する。
操っている魔力によって触れることで、それを理解できるのだ。
ただしこの作業はどうもくすぐったいようで、
「……んっ!? あっ……」
と、静さんが妙な声を出す。
それを聞いた雹菜と樹は怪訝な視線を俺に向け、
「……一体何をしているの?」
「いかがわしいこと、してる?」
などと言ったが、俺が割と真剣な顔で、冷や汗を流しているのを確認して、
「……気のせいだったみたいね」
「ちゃんとやってるっぽいな……」
と引っ込めた。
そして、静さんの感触を確かめた俺は、ついに魔力を彼女と一つにすべく、形をいじり始めた。
その作業はやってみると思った以上に難しかった。
自分一人の場合とは、明確に異なる……。
だが……。
「……よしっ。なんとか……できたか……!?」
俺の操った魔力が静さんと完全に同じものへとなった瞬間、それは静さんの魔力と同化した。
あのスキルの流れとは違う、静さんの深いところにある、細く小さな魔力の源泉の中へとしっかりと……。
これでステータスに変化がなかったら、また別の方法を考えなければならないが……どうか。
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