第172話 ステータスはどうか

「……静、大丈夫?」


 雹菜がまず、静さんに声をかける。

 ステータスがどうなったのか、俺としてはすぐに確認したいところだったが、静さんの様子がそれどころではなかったのだ。

 頬が火照って赤らんでおり、どことなく瞳の焦点が合っていなような気がする。

 やっぱり、無理に人の魔力を操るのは何か不具合があったか……?

 そう思ったが、静さんは雹菜の言葉に、


「だ、大丈夫、です……」


「そう? それならいいんだけど……でもなんだか、随分と……アレだったわね」


「アレとは」


「ええと……ゴニョゴニョゴニョ」


 雹菜は静さんの耳元に口寄せて何かをつぶやく。

 すると静さんの頬の赤みはさらに増したが、直後、


「い、いえ、そういうわけでは……いやでも、そんな感じだったかも……なんだか妙に気持ちが良かったというか……」


 と言い出し、雹菜は、


「やっぱりそうなのね……でもどうしてかしら。私と実験してる時は特にそんな感じではなかったのだけど……うーん?」


「そうなのですか? その辺りは私にはよくわからないですが……」


「まぁそうよね……ともかく、問題ないならいいの。で、気になるのは……」


「ステータス、ですね。ええと、《ステータスプレート》っと……」


 静さんが《ステータスプレート》を顕現させ、それを矯めつ眇めつ見る。

 そして、目を見開き、それから、ツーッと、彼女の頬を一筋の涙が流れた。


「ど、どうした。やっぱり上がってなかったか!?」


 慌てて俺がそう尋ねると、静さんは首を横に振って、


「ち、違うんです……逆です! 逆なんです……」


「逆? ってことは……」


 静さんが俺に《ステータスプレート》を手渡す。

 それを、俺と雹菜、そして樹で覗き込むと……。


 名前:宮野 静

 年齢:24

 称号:《万物を見通す目》《人嫌い》《偏屈な隠遁者》

 職業:無し

 腕力:2

 魔力:2

 耐久力:2

 敏捷:2

 器用:2

 精神力:2

 保有スキル:《万物鑑定》

 保有アーツ:無し


「おぉ! 上がってる!」


 俺がそう言うと、静さんは、


「やっぱりそうですよね……! 見間違い、じゃないですよね!?」


「あぁ、ちゃんと上がってるよ……な、雹菜、樹」


「間違い無いわね。たった1ではあるけど……今まで上がらなかったことを考えれば、これは大きな一歩だわ」


「しかも全部上がってるねぇ。普通に魔物を倒しても、全部がいっぺんに上がるのはボスを倒した時くらいで、普通は起こらないものだけど……オール1だったからかな?」


「それは俺にもなんとも言えないが……ただ、これから上がっていく可能性はある……よな?」


 俺の言葉に雹菜が、


「これで期待しない方が嘘でしょう。でも、どうして私のときはうまくいかなかったのに、今回はこんなにスムーズに行ったのかしら?」


 首を傾げる彼女に、俺は感じたことを言う。


「雹菜に魔力を入れようとすると、どうも固いというか、すごい抵抗があったって話はしたろ?」


「ええ、そういうことは前から言ってたわね」


「でも、静さんの場合、その抵抗がほぼゼロでさ。すんなり入れられて、俺の方が驚いたくらいだよ」


「……なるほどね。私と静では、そういう感触の違いが……? 私は固い? 一体何が……。考えられるのは、とりあえずステータス差だけど……」


「どうなんだろうな? ステータス低いやつには確かに試したことなかった。というか、雹菜にしか、怖くて試せてなかったけど……意外に、ステータス低いやつに試した方が、すんなりやれたのかも……?」


「その可能性はあるわね……慎君や美佳にやってみた方がいいかも。あとは……樹に試してみるのもありかもね」


「えぇっ!? 僕!?」


「何よ、嫌なの?」


「いや、そうじゃ無いんだけど……いいの? 結構、ギルドの機密というか、重要な情報だと思うんだけど」


「あなただってもうウチのギルドの一員でしょ? 樹に何かあったら、私はたとえ星宮家を敵に回しても戦うわよ」


「おぉ……ウチのギルドのリーダーは、男らしいんだね……」


 俺の方を見て樹がそう言ったので、俺は頷いて、


「かっこいいだろ?」


 そう言ったのだった。

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