第173話 ステータス上昇の結果

 その後、樹にも試した結果、やはり雹菜はくなにやった場合とは異なって比較的すんなりと魔力を操り、樹の中に取り入れてやることが出来た。

 と言っても、静さんの場合と比べると多少、硬さがあるような感触はあった。

 静さんに魔力を入れるときはこう、水に割り箸を入れるような感じだったが、樹の場合はもっとスライム的なものに何かを押し込んでいるような抵抗を感じたのだ。

 けれど、それでも雹菜ほどではない。

 体内に魔力を入れることさえ出来れば、その相手の魔力と同化させることは割と出来ることも分かった。

 まぁ、その相手の魔力と、魔物から奪った魔力の波長というか形というか、そういうものを合わせるのにはそれなりに手間取るので、いつでも誰にでもすぐに、というわけにはいかないが。

 一度やって、覚えてしまえば割と素早く出来るのだが、今のところ人数が静さんと樹だからなだけで、増えていけば誰の魔力の波長がどうだったか、とか忘れて行きそうだ。

 せめてギルドメンバーの魔力の波長と形くらいは、しっかり覚えておいた方がいいかもしれない。

 みんなの戦力を上げることを考えると、普通の魔物ならともかく、ボスモンスターや特殊な魔物を倒した時の魔力は素早く取り入れてもらえるようにしておくべきだろうからな……。

 ともあれ、これで結構ウチのギルドは戦力アップという意味ではアドバンテージを手に入れられたことになるので、万々歳である。

 のだが……。


「……なんで私だけ出来ないのよ! 納得がいかないわ!」


 雹菜は割と不機嫌そうだった。


「なんでって言ってもなぁ……やっぱり雹菜が強すぎるからだろ。ステータスに起因する差だってのは、静さんと樹の感触の違いでなんとなく想像がつくよ。まぁ、他の要素の可能性もあるかもしれないけど、何人か試せば分かるだろ」


「ステータスじゃないことを祈りたいわ……でも考えてみると、ステータスに起因してるとすれば、創の力によるステータスアップには限界があるってことね」


「言われてみれば、そうだな……どこまでも上げてやれるってわけじゃないってことか」


「今のところは私には無理ってことだから、大雑把に見て、ステータス100くらいが限界そうに思えるわね」


「って言っても、雹菜、すでに敏捷のステータスは300近いよな……」


「まぁね。だから何となくの話よ。100前後になるまで、試せばわかる……とは思うのだけど、どうしましょうね。速攻上げまくるというのもちょっと危険かも」


 雹菜が顎に手を当てて悩み出した。

 どういうことかと思ったが、それについては静さんが言う。


「急に腕力が上がったりすると、コントロールを失ってひどいことになるというのは、冒険者にありがちですからね……それでも普通のステータス上昇ならせいぜい、コップやドアのノブを破壊する、くらいで済みますけど、いきなり何十も上がったら……」


 それを想像して樹が、


「……暴走する牛を街に放つようなもんだね。慣れるまでゆっくり上げた方がいいよ。何十ならともかく、二、三日に5ぐらいずつ上げる、程度なら頑張れば適応できそうじゃない?」


 と言う。

 まぁ、確かにそんなものだろうな。

 ただ……。


「俺は結構、急にステータス上げたんだけど、割と適応できたぞ」


 と言うと、雹菜が少し考えてから、


「それは多分、器用のお陰でしょうね。折り紙とか色々やったでしょ?」


 言われて、


「あぁ、あれか。なるほど、力加減が上手くなってるのか、俺」


「そういうことよ。無駄に彫刻とかもうまかったじゃない。でも、普通は器用だけあんなに馬鹿みたいな数値には出来ないでしょう? 創の方で、上げるステータスを操作できるというなら話は別だけど……」


「いや、流石にそれは無理だな。魔力を同化させるだけしか出来ない。結果がどうなるのかは、俺もステータスプレートを見るまでわからなかったし」


「じゃ、やっぱり他人のステータスを上げる場合は、そういう配慮が必要になってくるわね。ま、それでも普通に比べたらとんでもない速度の上昇だから、楽でもないのよね、きっと……どのくらい大変かは、まだ全然わからないけど」


「そこのところは、静さんと樹で試すしかないな。二人とも、覚悟はいいか?」


 俺の言葉に、少し息を呑んだ二人だったが、最後には仕方がないと、深く頷いたのだった。

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