第503話 とある冒険者たち

「今年こそは受かるぞ、お前ら」


 迷宮の中、E級冒険者、林真一はやししんいちは、共にD級昇格試験を受けることになった同じギルドのメンバーである清水玄人しみずげんと斉藤亘さいとうわたるにそう言った。

 高校を卒業して五年。

 一年目にE級になり、そのまま次の年にはD級に……と思っていたが、残念ながらその年は受からずに終わった。

 しかし次の年は必ず……そう考えて二度、三度と挑んで、結局今まで全て落ち続けている。

 そろそろギルドからも良い加減昇格してほしい、という目で見られている気がして、ここで落ちたらもう後がないところまで来ていた。

 ギルドは零細までは行かないが、中小に当たる《風魔軍》というところで、ギルドリーダーが忍者に憧れてそんな名称にしたらしい。

 本当は《風魔忍軍》とよほどつけたかったようだが、副リーダーに止められたとか。

 真一としてはその副リーダーには感謝をしてやまない。

 ただ、ギルド名の微妙さの割に良いギルドで、そこそこの実力者たちが集っている。

 社風もかなりホワイト、と言っていいが、それでもあまりにもランクが昇格しないと居づらくなってくるのも本音だった。

 もしかしたら気にしているのは自分だけかもしれないが……。

 ただ、何にせよ、ランクを今回こそあげれば全てが解決する。

 だから本気で攻略方法を考えた。

 どんな手でも使うつもりで。


 試験官から伝えられた試験内容は、アイテムを集めること。

 アイテム、と言った時、それは魔物の素材から、迷宮の植物から得られるもの、それに魔道具なども含めた全てを指している。

 クジによって決められたそれは、二人の仲間のそれを見てみても、かなりランダムで設定されていることが分かる。

 これはおそらく、一人でやるのではなく、複数人で協力することが求められているタイプの試験ではないか、とピンと来た。

 被る素材があれば同じ場所で採取できる可能性があるし、そうならば複数人で挑めば効率は上がる。

 もちろん、採取できる可能性が低いレアなアイテムだと奪い合いも生じるだろうが、そこまで貴重なものをD級昇格試験で求めるとも思えない。

 だからまず、パーティーを作るのが大事だと考え、真一は周囲を見回し、使えそうな相手を探した。

 そして目に留まった人物に話しかけた。

 けれど、にべもなく断られ、試験の出だしは最悪だった。

 そんな真一に、二人の仲間は言う。


「……まぁ、そんなこともあるって。というか、あれは言い方が悪かった気がするな。たたでさえお前チャラついた奴に見えるんだから。俺たちも言えたことじゃないが」


「さっきのやつ、確かに若かったけど、かなり落ち着いて見えたぞ。それに身のこなしにもかなり隙が少なかった。ああいうやつは一発で受かるんだよ。見てきたろ。だから誘ったのはわかるが……俺たちは堅実に行こうぜ。経験はあるんだからさ」


 そんな風に。


「お前ら……なんでそんな風に言うんだ……って、俺が無茶しそうだからか。いや、少し血が昇ったけど、こう言うところがダメなんだよな。わかってる。さっきのやつにも後で謝るか……」


「それがいいぜ。ただ、なんか変な奴が追いかけてったよな? 小柄な奴だったが……妙に素早いのが」


「あぁ、かなり離れた位置からまるで尾行するみたいだったが……襲う気か? 助けた方がいいか?」


「いや……そう言うのも何とか出来そうな奴じゃなかったか? 試験終わっても戻って来なかったら試験官に報告するくらいにしとこうぜ。俺たちはまずは試験だ」


「それもそうか……よし、頑張ろう。今回こそマジで受かるぜ、俺たちは」


「そう願いたいな」


 そして、俺たちは歩き出した。

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