第502話 時間配分

「……まずは探さないと。この中だと……アイアンスライムが一番見つけやすいか?」


 迷宮入り口から遠ざかり、周囲に人の気配がなくなってから俺はそう呟いた。

 独り言だが、確認がてら呟いてないと、ふとした瞬間に、あれ、何やってたっけとなるからたまに言う。

 ちなみに、この迷宮だが、いわゆる階段や転移陣などで階層が分かれているタイプではなく、入り口から遠ざかれば遠ざかるほど、魔物が強いものが出易くなっていく、というタイプの構造をしている。

 ワンフロアがそのまま一つの迷宮全て、という感じに見えるのだな。

 そのため、だいたいこの辺りからが通常の迷宮で言う第二階層、みたいな場所は第二エリアとかそういう言い方をする。

 D級昇格試験では踏み入ることの出来るエリアは特に限定されてはいないが、あのクジに書いてあるアイテムが得られるエリアは、浅いエリアに限られているだろう。

 だいたい、第五エリアくらいから先はC級以上じゃないと厳しいらしいから、第四エリアまでにはあるはずだ。

 まぁそれでもさらに奥に行った方がゲットしやすい、みたいなのはあるだろうが、それこそ自己責任だからな。

 冒険者の死の責任を取るのは、組合でも省庁でもなく、その冒険者本人しかいないのだから。


 ちなみに、俺たちがまず放り出された第一エリアは、広い草原になっている。

 たまに湖や池などがあったりはするのだが、基本的には平野だ。

 ここに出現しやすい魔物は弱いものばかりだな。

 ゴブリンとかスライムとかのノーマルである。

 それでも見通しがいいから、気をつけなければならない。

 どういうことかといえば、冒険者が魔物を見つけやすいと言うことは、相手側も俺たちをみつけやすいということだ。

 魔物が一匹しかいないから、と嬉々として襲い掛かったら、戦っている最中にどこかから魔物がやってきて一緒になって襲いかかってくる、なんてことが起こりやすい。

 それでも第一エリアの魔物ならE級であればさほど危険はないが、もしものことはありうるからな。

 

「……だから静かに、出来るだけ早く倒して、さっさとその場を去るのが一番、と」


 俺のクジに書いてあった魔物は残念ながら、第一エリアにはいない。

 だから、可能な限り早く、次のエリアに移動するために急いでいた。

 と言っても直進はしないでいる。

 入り口から第二エリアに直進すると、魔物に襲われやすいんだよな。

 まるでそこは見張られているかのように。

 魔物にどれだけの知能があるのかはなんとも言えない部分があるが、少なくとも冒険者の行動について多少の分析のようなものをしている部分があるのは間違いない。

 考えなしの野生動物とは少し違うのだ。

 だからよくよく気をつけて進まなければ。


 ただ、それでも俺は十五分ほどで第一エリアを抜ける。

 魔物との遭遇もかなり抑えられたし、わざわざ回収をしなかったので余裕がある。

 しかし考えみれば、この移動だけでも結構な時間を取られるから、時間配分はシビアかもしれないな。

 俺は比較的早く第一エリアを抜けられたが、初見なら急いでも三、四十分かかっておかしくない。

 十時くらいに入って日が落ちるまでがタイムリミットだと考えると第三エリアまで一時間半から二時間かけて、そこから戻って……となると、六時間くらいしか探す時間がないな。

 これを長いと取るか、短いと取るか……微妙なところだ。

 俺は比較的余裕があるが、それでもものがものだ。

 可能な限り急いで見つけなければ危ない……。


「これは結構厳しい試験だな……」


 本当に深くそう思って、俺はため息をついて進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る