第501話 試験開始

 トンネルのような、少しばかり長く広い通路を進んでいくと、先の方に光が見えた。

 そこがこのトンネルの出口であり、かつ迷宮の始まりでもあった。


「やっぱここ広いよなぁ!」「俺の獲物はどこだ……どこにいる!」「アイテムが被らない奴同士で組んだ方が効率的だ! 俺の課題は……!」


 なんて、冒険者たちが早速と言った様子で叫んでいる。

 ただ、そんな彼らが黙り込むような声で試験官が叫ぶ。


「試験は日が落ちるまで、だ! この迷宮は知っての通り、内部の時間経過と外との時間経過にほとんどズレがない! だからここで日が落ちたら、そこで試験は終わりだ。その前に迷宮を出て、提出まで終えていない場合は失格となる! いいな!」


 受験者たちが一言一句聞き漏らすまいと耳をそばだてるが、この辺の内容については特に珍しいものじゃないな。

 一応、今まで課題として出された内容については調べればわかるが、こういったタイプの課題も頻出というか、よくあるので条件に大幅な変更があることは少ない。

 それでもたまにマイナーチェンジしたり、急に変わったりすることはありうるので真面目に聞かなくていいってわけじゃないが。

 

「……これで、俺から伝えるべきことは終わりだ。俺が始め、と言ったその瞬間から試験開始になる。何か質問のあるものは!? ……いないな。よし、初め!!」


 試験官はそう言った瞬間に、なんらかの方法によって身を隠した。

 一瞬で消えたので少し驚く。

 まぁ試験官……中でも最高責任者は現役の高位冒険者が務めるものなので、おかしくはないが。

 何かのスキルかアーツか、だよな。

 俺にも見えなかったから相当なものだ。

 格闘漫画じゃないが、世の中には見も知らぬ強者というのが本当にたくさんいるものだ……その割に顔も名前も知らない人だったが。

 

 ともあれ、そこからの受験者たちの行動は様々だった。

 即座に迷宮に散った者、迷ってどうするか考えている者、協力者を求めて周囲に呼びかけている者、ゆっくりと歩き出す者、それ以外、と言った感じかな。

 俺はそんなに焦ってはいないので、ゆっくりとこの場から立ち去ろうとしていた。

 しかし、


「おい、お前!」


 と声がかかる。

 声色からして知り合いの者ではないのが確実だから、無視してその場から立ち去ろうとするが、ガッ、と肩を掴まれたので諦めて振り向く。

 そこには俺よりもいくつか上……二十代前半かな?と思しき青年が立っていた。

 他に二人いて、まぁおそらく仲がいいのだろうなという雰囲気を醸し出している。

 いい空気感じゃないなぁ……。

 とはいえ何も言わないわけにはいかない。


「なんだ?」


 俺はそう尋ねる。

 敬語とかは必要ないだろう。

 年齢的には先輩だろうが、俺もこいつらも同じE級に過ぎない。

 冒険者の格付けは強さが全てだが、分かりやすく級で考えてもこいつらと俺は同格だ。

 敬う必要はない。

 しかし、向こうはそうは考えていなかったようで……。


「あぁ? その態度はなんだ。せっかく声をかけてやったってのに。お前の課題は何だったんだ? 協力してやるから見せろよ……」


 とクジを奪い取ろうとする。

 態度悪いな……俺はその手を避け、


「俺は一人でやるつもりだ。他を当たってくれ」


 とやんわりと断った。

 しかし、


「お前、見るに高校出たてか、十代だろ? 強がんなって……お兄さんたちがしっかり手を引いてやるからよ。その代わりお前、荷物持ちな」


 などと続ける。

 いい加減にしてほしいが……。

 いっそ殴ろうかと思ったが、やめておく。

 彼らのためではない。

 自分のために、だ。

 そもそも、この試験はあまりにも放任すぎるからな。

 どこかで協会や冒険者省の人間がそれぞれ監視していてもおかしくないのだ。

 単純にアイテムを持ってこられるかどうかではなく、行動でも加点減点している可能性がある。

 だから今は殴れない。

 

「何度も言うようだが、断る。これが最後だ。じゃあな……」


 それだけ言って歩き去る俺を、男たちは追いかけてくることはなく、ホッとする。

 流石にこれ以上突っかかってこられたら、俺としても正当防衛せざるを得なくなるからなぁ。

 無駄な争いで試験に落ちるのはごめんだ。

 俺は気を取り直して、試験課題に集中する。

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