第100話 職業、定着する
『……次のニュースです。《転職の塔》から平賀総理が救出されてから一ヶ月、多くの冒険者達が《職業》を得ましたが、それに伴って医療業界に変化が現れており……』
《無色の団》のギルドビル……駅前の小さなビルであるが、それでも結構なお家賃を取られている……の談話室にあるテレビから、女子アナのそんな声が聞こえてくる。
「……あれから一ヶ月か。あっという間だったなぁ……」
俺が昼ご飯を食べながらしみじみとそう言うと、対面で同じように箸を口に運んでいた慎が、
「そりゃ、取材に次ぐ取材だったもんな。あの日から、うちのギルドは有名ギルドになっちまった。設立一月の、弱小ギルドなのによ」
「まぁ、それは取材する方も分かってたろ。俺たちじゃなくてやっぱり雹菜の方を重点的に取材してたもんな。話題性があっただけだ。今じゃ、すっかり落ち着いたし」
取材、というのは当然、総理を救出した件についてだな。
詳細を聞きたいとキー局やら主要新聞やらと大量に取材申し込みがあって、流石にあまり大きなところからの依頼は断り切れなかった。
そしてそれだけでもかなりの数になってしまって、連日の取材続きに雹菜は辟易としていた。
しかし、俺たち……俺と慎と美佳は特段注目されなかったので、彼女が対応している間に迷宮に潜ったりしながらコツコツ実力をつけることが出来た。
迷宮に行っても、特段何も言われなかったしな。
駆け出しは注目ギルドにいてもその程度の扱いなのだ。
それに比べて、雹菜の場合、あまりにも注目される理由が多すぎたな。
ただ、そんな取材も今は大分少なくなっている。
決してゼロにはなっていなくて、一日に一件くらいは普通にあり、雹菜が受けて、俺がマネージャーよろしく事務を色々とやってはいるが、大した手間ではない。
「あれ以来大した話題がうちのギルドにはないからな……」
そういう理由もあった。
総理を迷宮から救出した、というのは話題としてあまりにも華やかすぎ、それを越える話題を生み出せていない。
まぁ冒険者ギルド、というのは別に話題を作るための集団とかじゃないからいいのだが、今後のことを考えるとギルドそれ自体がそれなりにいいところだと知ってもらう必要はあるから、多少の課題はあった。
当分は少人数でやっていくつもりだとはいえ、新人が全く入ってこない、では困るからな。 それに事務関係も冒険者だけで賄うのは厳しくなってきていて、流石に雇う必要が出てきているのだ。
あとは、未だに得られていない治癒術士である。
守岡さんは目星はある程度ついている、というのだがまだ少しかかるらしい。
できるだけ早くお願いしたいところだが、彼もそれは十分に分かった上でそう言っているというのも分かるので、こればかりは仕方が無いな。
「……ま、話題なんてそのうちついてくるさ。みんな職業を得られたわけだし。しかし聞いてはいたが、俺と美佳にも《オリジンの従者》がつくとはな」
慎が笑って言った。
そう、雹菜がついた《オリジンの従者》であるが、慎と美佳も取得できたのだ。
加えて、もう一つメインとなる職業についている。
慎が《騎士》を選び、美佳の方は《炎術士》を選んだ。
《騎士》の方は防御力の強化や、術や治癒系にも親和性がある万能な職業のようで、慎らしいと言えた。
ただ、術や治癒については本職と比べると効果などが見劣りするので、器用貧乏とも言えるが、慎の対応力によってかなりの能力を発揮している。
美佳の《炎術士》は名前の通り、《炎術》に強力な親和性を見せる職業で、ただでさえ威力のある《炎術》に更に威力と精密性がプラスされる格好となった。
加えて、他の系統の術も覚えられるようで、いずれは全ての属性の系統の職業を修めるのを目標としている。
そう、職業なのだが、転職は意外と自由に出来た。
ただし、ある程度以上にスキルに熟練していなければ、他の職業に転職したとき、そのスキルが失われるようだ。
この辺はすでに大規模ギルドなどが検証をしていて、はっきりとしていた。
だから転職が容易だからと言って、ぽんぽん転職しまくっていると、結局なにも身につかずに終わってしまう。
現実に近いその仕様に若干の世知辛さを感じないでもないが、まぁ、なっただけである程度スキルが身についたりするので、そんなものだろうとは皆、納得していた。
それくらい、たった一月で《職業》は冒険者に馴染んでいた。
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