第99話 そして外へ

 そして一応は地図上で入り口として表示されているところまで戻ってみると……。


「……扉、だな。開くかな?」


 そこにはまさに、入るときに見た扉を同じものがあった。

 この向こう側には、官僚や三笠大臣がいるのだろうが、やはり塔の内部と外部は魔力的に遮断されているようで、向こうの様子は何も感じられなかった。


「どうでしょうね。とりあえず触れてみなければ分からないけど……」


 雹菜はくながそう言ったので、俺が言う。


「じゃ、俺がやってみるからみんな少し離れててくれ」


「ちょ、ちょっと待って。危険じゃ」


「っていっても、誰かがやらないとな……それにほら、俺が一番可能性高いだろ?」


 最後の方は雹菜だけに聞こえるように耳打ちした。


「……それはそうだけど。でも、せめて近くに」


「一緒にいても飛ばされるときは飛ばされるのは、入ったときに分かったしな。まとめて飛ばされないように注意しておいた方がいいだろ」


「……私より冷静なんだから。嫌になるわ。分かった。頼んだわよ、創」


「あぁ」


 合意したところに、総理が、


「……いいのかね? 危険だと思うが」


「まさか内閣総理大臣の身の安全よりも大事な人間のつもりはないですからね」


 と冗談めかして言うと、総理は意外にも真面目な顔で、


「馬鹿なことを言うな……君も、そして他の国民も、私も、命に代わりなどない」


 と言ってくる。

 少し驚いて、でも、だからこそ俺も真面目に返した。


「分かってます。でもここで一番、守らなければならないのは貴方で、実力があるのは俺以外の三人ですから」


 それに総理は真剣さを感じてくれたらしく、苦笑しながら、


「……君のような若者でも、いっぱしの冒険者、といわけか……分かった。頼り切りで済まないが……」


「多分大丈夫だと思うんですけどね。流石に、出口無しって事は無いと思いませんか?」


「うむ……そう願おう」


 そして、俺が扉に触れると、周囲が光に包まれて……。


「……くん……天沢くん!?」


 と、肩を掴まれて体をガクガクと振り回される感触を感じた。

 眩しかった視界がまともなものに戻ると、見えたのは筋骨隆々のおっさんの姿だった。


「……もう少しいいものが見たかったな」


 ふとそんなことを口にすると、


「何を言ってる!? 総理はどうした!? 君も無事なのか!? 怪我などは……」

 

 と真摯な心配の情と、情報を求める必死さが伝わってきたので、俺も改めて彼……三笠大臣に言う。


「総理は無事でした。俺たちも全員問題ないです。中から出れるかどうか試してみて、出てきただけなので……とりあえず、俺、もどって皆に伝えてきますね。皆さんは、総理を迎える準備を。外傷はないんですが、上級回復薬を飲んでもらっただけなので、精密検査も必要になると思います。じゃ」

 

 そう言ってから、また扉に触れる。

 同じ場所にたどり着けるかどうかは、はっきりとはしてなかったが、雹菜たちが最初に出た場所から入り口までの道順は聞いておいたし地図も覚えているので大丈夫だ。

 そして、塔の中に戻ると、


「あっ、創! 大丈夫だった!?」


 と、雹菜の声が聞こえた。

 そこは先ほどいた場所で、どうやら最初に入ったときのように飛ばされたわけではないらしいと分かる。

 どういうルールなんだろうな?

 謎だが……まぁ、今は良いか。

 とりあえず雹菜に俺は答える。


「問題なかったよ。普通に外に出られた。外からもここに戻ってくることが出来たし、総理にも安心して外に出てもらえると思う」


「それは良かったわ……じゃあ、総理。まずは私から外に出るので、その後に続いて下さい」


 これは、総理が先に出て、誰かに狙われることを避けるためだろう。

 護衛についてもそれなりに経験があるだろう雹菜らしい気遣いだった。

 総理は慣れているようで、頷いて、


「頼む」


 そう言った。

 そして雹菜が扉に触れ、消えていったのを確認し、しばらくしてから総理もそこから消えていった。


「……じゃあ、次は……」


「私が行きます」


 美柑さんがそう言って扉に触れ、消えていき、最後に紬が、


「私が行っても良い? あとでもいいけど」


「いや、俺は最後で良いよ」


「そう? じゃあお言葉に甘えてっ!」


 と楽しげに扉に触れて消えていった。

 最後に俺も扉に触れると、


《《転職の塔》、第一階層が攻略されました。《初期職》への《転職の間》へは今後、出入りが自由となります》

《各地に《転職の祠》を設置しました。《転職の塔》入り口以外からの出入りは《転職の祠》を通じて行って下さい》

 

 そんな声が聞こえ、俺は、


(また《声》かよ……)


 と、ちょっとだけげんなりしつつ、光に飲まれて外へと転移したのだった。

 

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