第328話 欠片

 賀東さんの視線の先、俺の胸元で腹を出してつぶらな目で周囲に媚を売っている《竜》は、美しい色彩をしていた。

 全体的には艶のある青みがかった黒なのだが、そこに白色のラインや模様が優美に描かれているような、そんな感じなのだ。

 ただ、体型に関しては若干ずんぐりむっくりとしているというか、愛嬌のある形をしている。

 匂いは……爬虫類っぽい匂い、ということもないかな。

 ほとんど無臭である。

 鳴き声は……。


「キュッ、キュキュッ!」

 

 ……そんな感じで、イルカとかに似ているか?

 ただそれよりもコミュ力があるというか、周囲の人間の言葉にしっかりと反応し、返答しているように思える。

 樹や美佳が何か尋ねたり話しかけたりすると、そちらに視線を向けたり鳴いたりしていることからの推測だ。

 流石に完全に言葉がわかっている、みたいなことはないだろうが……それでもかなり賢い生き物であることは理解できた。

 まぁ、竜だしな。

 それこそアメリカや中国に姿を現している竜は、言語を理解してる様子があったという。

 実際に会話した者は流石にいないが。そもそも一定以上の距離に人間の方からは近づけないのだ。

 じゃあどうやって話しかけたのか、と言えば向こうが人類の領域に侵入してきた時、拡声器で何か叫んだりしたらしい。

 その時の反応でおそらく言葉を分かっている、という推測のようだが、見てないのでなんとも言えないところだな。

 ともあれ、そういうことだから、ここにいる竜もまた言葉を分かっている、もしくはこれから分かっていく可能性があると考えるのは間違いではないだろう。

 

「……うーむ。しかしまぁこうしてみると可愛いもんだな。俺もこういうのだったら従魔に一匹欲しいぜ」


 賀東さんがそう言った。


「賀東さんは従魔、いないんですか?」


 俺がそう尋ねると、彼は答える。


「あぁ。そもそも《従魔の卵》自体、非常に珍しいもんだからな。たとえ《騎魔の卵》であってもだ。それに《従魔の卵》はどうも、主を選ぶ感じがある。手に持ってみて、魔力を吸収される感覚がした場合にはその《従魔の卵》はいずれ持ち歩いていれば孵るが、全くそういう気配がない場合にはどれだけ持ち歩こうが孵ることはない。どうも《従魔士》系の職業についていると、従えられる可能性が高いらしいが……絶対というわけでもねぇみたいだな」


「へぇ……じゃあお前は俺を主に認めてくれたわけか」


「キュキュッ!」


「……やっぱ、なんとなく言ってることは通じてるな……」


「まぁ、特に危険そうな雰囲気もないし、大事にしろよとしか言いようがないが……しかしやっぱりなんであの板を吸収して孵ったのかは疑問だな。その辺り誰か……」


 賀東さんが首を傾げると、これに静さんが、


「それについては私にちょっと意見が……」


 と言った。


「あ? なんだ?」


「あの板を鑑定した時に見えたものなのですが……」


「お、見えてたのか。その前に吸収されちまったのかと」


「いえ、一応見えていました。ほとんど文字化けみたいになってはいたのですが……」


「万物鑑定士様でもそんななのか……で、内容は?」


「ええ、こういう感じでした」


 名称:《創造主》の欠片

 説明:往古、《世界》を無から創造した存在、その砕け散った欠片。《断片》を繋ぎ合わせる事も出来るが、一欠片では何も出来ない。


「……なんだそれ。そもそも創造主とかいるのか……カミサマかよ、ハハッ」


 賀東さんが少し馬鹿にしたように言った。

 といっても信じていないというより、話のスケールが大きすぎて笑うしかないという感じのようだ。

 それは俺も同じで理解できる。


「……っていうかそんなもの吸収してお前、平気なのか……?」


 俺が竜に尋ねると、竜はつぶらな瞳をこちらに向けてきて首を傾げる。


「キュ?」

 

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