第327話 従魔の卵
「……お前、それ、なんなんだよ……」
常に余裕を持っていて、どこか飄々とした雰囲気を崩すことのない賀東さんが珍しく、冷や汗のようなものを垂らしながら俺の方を見つめていた。
いや、厳密に言うなら、俺の胸元か。
「……かわいい~! えっ、何この子、めっちゃかわいい~!」
「本当だね、あっ、撫でると気持ちよさそうだよ! なんだかもっとゴツゴツしてるかなと思ったけど、思った以上にぷにぷにしててさわり心地も良いなぁ……」
美佳と樹が赤ん坊に構うようによってたかって、
「……二人とも、怖くないのか……?」
「竜って言ったら、化け物だろ。アメリカのグランドキャニオンの魔境に鎮座してるって言われてる……中国にも確かいるはずだが……それがこんな……」
カズと巧は及び腰で遠巻きにそんなことを言っていた。
「……なぜ、今、孵化したのかしら……いえ、さっきの板状の物体のせい? 魔力はもう十分に与えて吸収しなくなってたものね。何かきっかけが必要だったと言うこと……? それにしても、あれは一体……」
雹菜は腕組みをして考えている。
ただ、彼女も母性にはあらがえないのか、少しずつ近づいてきて、手が伸びていた。
「……で、おい。創。俺の質問に答えろよ」
賀東さんがそう言ってくる。
だが、俺も答えは持たないので微妙な言い方しか出来ない。
「いや、そんなこと言われても俺にも分かりませんって……さっきの卵、ちょっととあるツテで手に入れたんですけど、ついさっきまでまるで孵化する様子もなかったし」
「卵ねぇ……なんだか丸い石ころみたいな感じだったが……《従魔の卵》なら俺も見たことはあるが、もっと白いというか、ダチョウの卵みたいな感じで、さっきお前の持ってたのみたいな奴じゃなかったぞ」
「あぁ、それは……」
言って良いのかな?
微妙なところだったので雹菜に視線を向けると、彼女はため息をついて、
「……出来ればオフレコでお願いしたいんだけど」
と言う。
もう見られてしまった以上、説明せざるを得ないと腹をくくったようだ。
まぁそれも賀東さんに対する信頼があってのことだが。
賀東さんはその言葉に真剣な表情で頷いて、
「……他言しないと誓おう。契約術の専門家でも呼んでくるか?」
と言ったが雹菜は首を横に振って、
「いいわよ、そこまでしなくても」
そう言った。
「で?」
「ええ……あれは《従魔の卵》ではなく、《神魔の卵》というものだったわ。これについては静が鑑定してるから間違いない。ただ詳しい正体は分からなくてね。闇が生まれるか光が生まれるかは謎、みたいな説明しか見れなかったの」
「《神魔の卵》……神、か。そりゃよっぽどな品ってことだよなぁ」
「他に聞いたこと、ないわよね?」
「あぁ。うちも色々と情報は仕入れてる。《従魔の卵》関係についても、色々と有用だから調べて入るが……さすがに《神魔の卵》なんてものはな。まぁ、《従魔の卵》にも格みたいなものがあって、《騎魔の卵》とか《子魔の卵》とか《男魔の卵》とか見つかってるが。名前の付け方からして、一番上は《公魔の卵》か《王魔の卵》じゃないかって言われてるが……本当は《神魔の卵》が最上位ってことか……?」
「へぇ、それは知らなかったわ」
「普通に鑑定かけても全部《従魔の卵》って出るからな。うちの鑑定士様々の情報だ。ともあれ、そこから考えると……あの従魔は相当やべぇのってことになるが……」
賀東さんが再度、視線を向ける。
そこは当然、俺の胸元で、俺が抱えている竜に向かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます