第326話 吸収
「……雹菜」
静さんが雹菜に視線を向けてそう尋ねる。
これは、静さんがその力を使っても構わないか、ギルドリーダーの許可を求めているのだ。
通常の品であれば自由に鑑定してもそれでいいだろうが、今そこにある品についてはどう見てもそういうものではない。
大抵の鑑定士に鑑定の出来ないような品、と来れば、まともに鑑定依頼を出せば場合によっては数千万、数億、となることだってありうるのだ。
それだけのものを気軽に鑑定して良いのか、ということだ。
しかしこれに雹菜は、
「……まぁ、いいんじゃない? 賀東さんには大分色々してもらってるわけだし。鑑定したからって大損するようなものでもなさそうだわ」
そう言った。
これに賀東さんは、
「おぉ、そりゃありがてぇ。言ってみるもんだな……。実はこいつの使い道、気になっててよ。めっちゃ固いから加工も出来ねぇし、かといって他に何か利用法があるかといえばよくわからねぇしで、扱いに迷ってたんだ」
そう言う。
「……ただ、あれよ。どんな結果になっても文句を言うのは無しよ」
「おう、構わないぞ。まぁ、欲しけりゃ、やってもいいくらいだ」
「どんなものなのか分からないのに、そんなこと言って良いの?」
「……うーん、なんというか、これは俺たちが持ってるべきものじゃないような気がするんだよな。たまたま転がり込んでただけって言うか。直感だが……笑うか」
「笑わないわよ。そういうのは大事だからね……じゃ、そういうわけで静、よろしく」
「分かりました。では早速……っ!? こ、これは……」
静さんがそう言ってその板状のものに視線を向けた瞬間、それは輝きだした。
そして、なぜなのか分からないが、俺の腰にあるもの……つまりは、ずっと後生大事に持ち歩いていた《卵》もまた光り出した。
「お、おい、お前それなんなんだ!?」
賀東さんが気づいて尋ねてくるが、
「い、いや……卵ですけど……あっ!」
そして板状の物体が唐突に浮かびだし、そして俺の腰の卵へと飛んでくる。
賀東さんは慌てて板状の物体を捕まえようと手を伸ばすも、A級冒険者であるはずの彼の速度よりも素早く動き回ってとらえることが出来ない。
「速すぎんだろ……ッ!?」
そして、最終的にはその板状の物体は俺の卵の元へとたどり着き……そして、すっと卵に触れると、まるで内部に吸収されたかのように入り込んでいき、消えていった。
「……えぇ……」
うめき声が出てくる俺。
これ、なんなのかよくわからないけど、一体いくらになるもんなんだよ……俺が払うのか?
そんな庶民的な考えが頭に浮かぶも、卵は俺の小市民なところに配慮して吐き出してくれたりはしなかった。
それどころか、
ーーピキピキッ!
と、卵にヒビが入る。
魔力をひたすらに吸収し、にも関わらずなぜか孵化しなかった卵。
それがたった今、謎の物体を吸収してついに孵化しようとしているのか……?
「創っ……大丈夫なの……!?」
雹菜がそう尋ねる。
ただ、光がまぶしくて状況を把握できていないようだった。
そういえば、俺は不思議と光があってもまぶしくは感じない。
卵の状態をしっかり確認できている……。
だから俺は言った。
「いや、平気だけど、なんだか卵が孵りそうなんだ……」
「なんですって!? こんなところで……」
「あっ、割れる……」
そして、ヒビは全体へと広がり、最後のとどめと上部から何かの口と思しきものがにゅっと出てきた。
「……は虫類……? いや……」
は虫類っぽい細長い口で、トカゲが出てきそうな気がしたが、
「……きゅいー!!」
鳴き声と共に卵を完全に割って出てきたそれは……。
「……竜……か……?」
背中に翼のくっついている、小さな竜のように見えた。
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