第325話 奇妙なもの
「……へぇ、グレータートレントの木材に、キングゴブリンの魔石……あっ、こっちにはワイバーンの皮まで……薬品類もすごいわね。部位欠損まで治せるものがこんなにたくさん……」
雹菜が若干興奮気味に倉庫の中を歩き回って観察している。
横には静さんを引き連れ、使い道が分からない品があると逐一説明させていた。
さらにその後ろには佐倉さんがいて、メモをひたすらとっている。
静さんの鑑定で見た内容は非常に参考になるというか、貴重な資料らしい。
「全てギルドメンバーの頑張りのお陰だな。俺も前線には今でも出るようにしてるが、やっぱりギルドのトップになっちまうと事務手続の方に時間がかかってしまって中々な……だからこそS級の奴らはギルドにも入らずにひたすら攻略してるんだろうが」
「それくらいじゃないとS級にはなれないってことね……世論ではギルドを作って後進に指導すべきところ、自分が強くなるためだけにソロを貫くのは傲慢だみたいな意見もあるけど……」
「それを外側から言って自分は何もしないマスコミ連中の方が傲慢通り越して失礼だけどな。少なくともS級はずっと最前線で命かけて戦ってるんだ。人口の多い土地の街中で海嘯の兆候が出た時は奴らも特に報酬も要求せずに鎮圧戦に参加する。それで十分だろう」
「その通りね……そんなS級がいてすら、魔境に飲まれてしまった北海道を思うと人類の先行きに厳しいものを感じるけど」
「今と違って当時は《転職の祠》みたいな便利なもんがなかったからな。転移していくってわけにもいかなかった。それに、あそこはあまりにも土地が広すぎて、気づいた頃には魔力が充満してどうしようもなくなってたって話だ。まぁ、流石に当時のことは俺も詳しくはしらねぇんだが……」
「そんなところにそのうち行くのが確定してるのが恐ろしいわね……あっ、これちょうだいよ。うちにないのよね、完全状態異常回復薬」
「おまっ、それはうちにも十個しかないんだぞ……いや、なんでもやるとは言ったけど」
「いいじゃない。三つでいいわよ」
「……二つにしてくれ。うちでも五つは確保しておきたいんだ」
「あら、残りの三つは?」
「今度の《転職の塔》攻略で振る舞うんだよ。どうも、レッサードラゴンの守ってた扉の向こうの迷宮……長いから《転職の迷宮》と呼んでるが、そこには状態異常をよく使うのが多いらしくてな」
「それ三つで足りるの?」
「足りねぇさ。だが普通の毒とか麻痺とかなら治癒術持ってる奴らに治療して貰えば大丈夫だからな。それに完全状態異常回復薬じゃない普通の状態異常回復薬なら売るほど在庫がある。だが、ボス戦を考えると持っていきたいところだろ」
「あぁ……やっぱりボスいるわよね」
「いるだろう。レッサードラゴンみたいなのがな。倒せば、次の転職への道が開ける……かも知れない、と考えておくべきだな。まぁいないならいないでいいんだが、いるなら状態異常系の強いやつが出てくるはずだ。通常の治癒や浄化じゃ難しい場合がある。俺は今回の攻略で誰も死なせるつもりはねぇからな。だから必要なんだよ」
「……そういうことなら、二つで大丈夫よ。普通のやつはそれなりに包んでね。あとは……」
「お前、遠慮がねぇのな……」
「しても仕方ないから……ん? あれって……」
そんなことを話しながら進んでいくと、最も奥まったところに奇妙なものがあるのを見つける。
それは平べったい、板のようなものだった。
「……あぁ、それか。そいつはうちのギルドメンバーが迷宮で拾ったモンだな。だがなんなのか博美でも見れなくてよ。ちょうどいい、万物鑑定士様よ、見てくれねぇか?」
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