第324話 代わり
結局、そのあと慎はもう一式武具を選んだ。
そちらは《黒騎士の鎧》と《黒騎士の剣》というものだ。
名前から察するに、先に選んだ白騎士シリーズと対をなすもののようで、性能も似通っていた。
ただし、白騎士シリーズは守りに寄っているところ、黒騎士シリーズは攻撃に長けているようだった。
慎はこれを見て、どちらにするか悩んでいたが、賀東さんが、
「欲しいなら両方持ってけよ。さっきも言ったが騎士系の武具は余ってるからな」
と言ったため、両方慎のものになったのだった。
慎も結構固辞していたが、賀東さんに押し負けた格好だな。
その後は、他のメンバーの武具選びをしたが、皆かなり性能のいいものをもらった。
これだけのものをまとめてポン、とくれる財力にはクラクラするが、大規模ギルドというのはこんなものだ。
だからこそ、国の冒険者の代表として振る舞える。
ただ、雹菜については今使っているものほどの品がなく、どうしたものか、ということになった。
雹菜は、
「別にこんなにたくさんもらったんだし、終わりでもいいわよ? ギルド戦だってうちのギルドのことを考えて挑んでくれたわけだし、なんだか悪いわ」
という。
これはまさにその通りで、賀東さんは大損してるようにも思える。
しかし彼は首を横に振って言う。
「有望なギルドにはさっさと上に上がってきてもらいてぇんだよ。そのための投資だと思えば大したもんじゃない。知っての通り今の日本の冒険者業界は人手不足だからな。特に高位冒険者については……。俺たちに皺寄せが来てる。一人でも多くの高位冒険者を誕生させることが、俺たちの休暇確保にもつながる……だろ?」
「まぁ確かにそれは否めないわね……私の次の休み、一体いつよ……」
ボヤく雹菜に、佐倉さんに絡まれている静さんが少し離れた位置から、
「最低でも一月後ですね。出来ればその日にも予定を入れて欲しいくらいです」
と叫ぶ。
それを聞いた雹菜は頭を抱えて、
「なんでそんな忙しいのよ……」
と呟いていた。
「賀東さんも同じくらい忙しいんですか?」
俺が気になって尋ねると、賀東さんは少し考えてから答える。
「俺は忙しいっつっても週一くらいの休みは取ってるぜ。雹菜はなぁ……アイドルじみた人気だからだろ。予定の多くはテレビとかのメディア露出なんじゃねぇのか? 政府も最近は雹菜を使いたがってるしなぁ……」
「あぁ、なるほどそういう……前はでも出来る限り断ってたような?」
「らしいな。だがさっきも言ったように今は冒険者業界は人手不足だ。雹菜が露出するだけで希望者が協会に押し寄せてくるからな。協会の方から依頼が来るんだろうさ。テレビ局から直での出演依頼なら断れても、協会のお偉いさんから言われたら断りにくいというか、断らない方が後々得だからな」
「得って……」
「依頼で便宜を図ってもらえたり、取引相手の紹介とか……オフレコの話をチラッと聴かせてもらえたりとか、色々あんだよ。雹菜はあれでその辺、清廉潔白でないというか、うまく泳ぐ女だろ?」
「それは確かに」
おかしな正義感とかよりは実利を取るタイプだろう。
「二人とも勝手なことを……まぁ、間違いじゃないけどね。ただあんまり予定詰めすぎて体壊すのもなんだし、どっかサボることにしましょう。で?」
「あ?」
「武具じゃないなら私に何をくれるの?」
「あぁ、それなんだが、素材はどうだ?」
「素材?」
「あぁ。武具を作るのでも、薬品とかの製作のためのものでもいいが、そういうものだったらあっても損しねぇだろ?」
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