第407話 電話連絡
佳織から連絡したことを聞いた俺は、あわてて雹菜に電話を入れる。
「……あっ、雹菜! オレオレ」
『……どちらさま?』
大分冷ための声に、おっとこれはまずいのでは、と察しつつ、俺は冷静に言った。
「……創です。分かってるだろ?」
『まぁね。でも、さっき佳織ちゃんから電話をもらって、創が黒い穴に飲み込まれたって聞いた私の気持ちも分かって欲しいわ』
「それはなぁ……悪かったよ。ごめん。というか、俺が悪いのか?」
別に自分から飛び込んだわけではない。
あの黒い穴の方が俺を追いかけてきたのだから。
そうなった理由は、あの老ゴブリン……ペルシュが俺を呼んだから、ということなのだろう。
あそこであったことを考えると、あの場所に行ったことに後悔もないが……それでも、まぁ不安な気持ちにさせたのはそうか。
『……はぁ。別に悪くはないわ。私が不貞腐れてるだけ。創がそうやってどこかに行ってしまったとき、一緒にいられなかったことにふがいなさを感じてるだけ。私こそ、ごめんね。面倒くさい女で。冒険者なら……それくらいのこと、覚悟してデンと待ってるべきなんでしょうけどね』
「そこまでは言わないさ……にしても、俺も気をつけるんだけどな。あぁ、そうだ。ちゃんと戻ってきたし、迷宮の外に出てるから、急いで来なくても大丈夫だぞ」
『みたいね。でも話は直接聞きたいから、五反田本部まで来てくれる? 私もそっちに向かうわ』
電話口で報告を聞かないのは、盗聴の危険があるからだ。
一応、黒い穴、とか言ってるけど、これだけだとただの罠にひっかかっただけかというくらいにしか分からない。
まさか異世界に行ってるなんて、分かるわけがないからな。
中であったことも推測しようがない。
俺から直接聞かない限りは。
「あぁ、分かった。じゃあ素材売却してから、向かうよ」
『はーい、じゃあ、また後で』
そしてぶつり、と電話が切れた。
「……どうだった?」
佳織がおずおずとした様子で俺に尋ねる。
俺の反応に、もしかしてまずいことをしたか、という表情だ。
実際には、俺が今回みたいなことに巻き込まれがちなのが問題であり、佳織がすぐに雹菜に報告したのは正しいし、まぁそうするだろうとは思ってはいた。
ただ俺が、やべぇ、と思ってしまっただけで。
だから俺は佳織に言う。
「いや、大丈夫だったよ……まぁ別にそもそも喧嘩するわけでもないんだしな」
「でもお兄ちゃん、大分凄い顔してたよ、さっき」
「それは俺が小心者なだけだ」
「ぷっ、何それ」
「まぁそれはいいんだよ。それより、せっかく佳織が初めて迷宮で素材を取ってきたんだ。売却しに行こうぜ」
「えっ、大丈夫なの? 雹菜さんとこにすぐ行かなくて」
「あぁ、売却してから行くって言ったからな。それに五反田支部で待ち合わせたし、そこでなら事務仕事でも片付けながら待っててくれるさ」
「そっか。じゃあ遠慮なく」
そして俺たちは素材の売却をした。
やはり低級の魔物ばかりのそれだったので、大した額にはならなかった。
崩壊世界の魔物たちの素材も売れば違っただろうが、あそこの魔物の素材は売るとまずいということくらい、流石の俺も分かっていた。
そもそも貴重なものばかりだから、ギルドで使いたいしな。
一応、壊れたハルバードも持ってかえって来てはいるくらいだ。
魔剣、魔槍などの魔武具は、修理工が存在するので一応見せたいからだ。
まぁたとえ直せなくても、それを素材に何か作ることも出来るかもしれないしな。
そんなわけで、売却益は俺からしてみれば大した額にはならなかったが、佳織からすると結構な儲けになった。
「本当に全部貰って良いの!?」
しきりにそう言っていたが、俺が何度もいいんだと言うと、最後には、
「ありがとう、お兄ちゃん!」
とほくほく顔になった佳織だった。
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