第183話 美佳の実力
『……そして対するは……ここ最近、色々な意味で話題のギルド《無色の団》の美人冒険者……山野美佳だ!!』
アドベンチャラー雷豪の声と共に、向こう側の入場ゲートから美佳が入ってくる。
ただ、その表情は困惑というか、恥ずかしがっているようだった。
その理由はなんとなく分かる。
「……美人冒険者って」
俺が呟くと、雹菜が笑う。
「美人なのは間違いないからいいんじゃない? 煽りすぎな気がするけど……あぁ大丈夫そうね」
なぜ大丈夫そうと言ったのかというと、美佳が出てきて、会場内にある巨大スクリーンに彼女の顔が映った瞬間、結構な歓声があがったからだ。
その理由は明らかで、美佳の顔がそれなりに整っているからだろう。
男の声が多かったのはもちろんだが、意外にも女性の声も少なくなかった。
「……学生時代から後輩にモテるからな、あいつは」
「そうなの? でもまぁわからないでもないわね……面倒見いいし、どっかかっこいい系の立ち居振る舞いというか」
「そうそう……お、始まるぞ」
そして、瀬古と美佳がステージて相対する。
『……それではギルド新人戦、第七試合……開始!』
アナウンスと同時に、二人は動き出す。
瀬古の方は巨大な包丁のようなものを武器として持っており、美佳の方は杖だ。
見た目からお互いの戦闘スタイルが丸わかり……のように見えるため、瀬古はさっさと勝負をつけるべく、美佳の方に突っ込む。
「うーん、決断力はいいけど……ちょっと相手が悪かったかもね」
雹菜がつぶやいた通り、大きく振り上げられた大包丁が美佳に襲い掛かるが……。
『……瀬古、早速の一撃だったが……残念! これは山野に弾かれたぁ!! これはどういうことだぁ!?』
アドベンチャラー雷豪はそう叫ぶ。
試合の実況および解説も彼が務めているからこその台詞だった。
そして実際、瀬古の攻撃は美佳には当たらずに弾かれ、瀬古は驚いたように後ずさる。
何をされたのか、理解していないようだった。
しかし、次の瞬間、ごうっ! と、彼の周囲を強力な熱気が包む。
美佳によるスキル《炎術》の《フレアサークル》だ。
それは徐々に距離を縮め、全方向から瀬古に襲いかかる。
ただ、さすがにこれだけで決まるほど、瀬古も弱くはなかった。
周囲を一瞬で確認し、どこにも逃げ場がないことを理解すると、覚悟を決めたように直進して、炎の壁に自ら向かっていく。
ダメージ覚悟の突進だった。
「うわぁ……あれは勇気が違うね。僕なら諦めて降参しちゃうよ……」
その姿を見てそう言ったのは、樹だった。
試合は途中での降参が許されていて、追い詰められたらそうする出場者も少なくない。
それを選ばない瀬古の覚悟がよく理解できる。
そして、それができるだけの実力もあることは確かなのだろう。
瀬古は炎の壁を抜け、大包丁を後ろ手に持ち、そこから美佳を横薙ぎにしようとした。
それが命中すれば術師系の美佳は倒れるだろうと考えての攻撃だった。
しかし、その大包丁が美佳に命中する直前、
ーーカァン!!
という高い音を立てて弾かれる。
しかも、先ほどよりも強く弾かれたのか、瀬古は大包丁を取り落とした。
慌てて拾いに行くべく足に力を入れた瀬古。
けれど、そんな彼の背中に向かって、巨大な火球が迫った。
瀬古が気づいた時にはもう遅く、彼の背にそれが命中し、吹き飛ばされる。
ステージ外まで吹っ飛んだ瀬古に、
『……さぁ、テンカウント以内に戻って来られるか……ワン、ツー……」
そしてそのまま……。
『……テン!! おっと、瀬古、それでも立ち上がったが、もう遅かったようだ! この試合は、山野美佳選手の勝利!! 会場の方々、両者の健闘に、どうか万雷の拍手を!』
大きな拍手が会場を包んだ。
瀬古はがっくりと肩を落とすが、美佳がそちらに近づいて握手を求める。
少し悔しげな表情を見せた瀬古だったが、やはり負けは負けと認めたのか、最後には笑顔を浮かべて美佳と硬い握手を交わしたのだった。
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