第182話 対戦相手
そうやっていくつかの試合が進んでいく。
先ほど見たように、ギルド新人戦はまず最初にソロ部門が行われる。
これは、冒険者という存在が、ソロで迷宮に潜ったりすることは稀で、基本的にはパーティーでいるものであり、そちらの戦いの方が本来の冒険者のそれである、と考えられているからだな。
とはいえ、個人の実力というのも気になるのは間違いないし、その上、単純に個人戦というのも見応えがあって面白い。
また、冒険者のファンはパーティーにもつくが、個人につくタイプの方が熱狂的なことが多いため、そういう意味でも要望が多いのがソロ部門だった。
「……慎たちの試合まだかな」
俺がそう呟くと、
「人数が多いからね……あっ、あれ美佳じゃない?」
見ると、入場ゲートの向こうに緊張した面持ちでいる美佳の姿が目に入った。
それと同時に、アナウンスの声が響く。
『次の試合は少し変わったものになるかもしれないぞ! さぁ、登場してもらおう。まずは……ギルド《魔物料理人連盟》所属の
その声とともに、美佳と反対側のゲートから出てきたのは、俺と同い年ぐらいの少年だった。
ギルドの新人は全てではないが、その多くが成人したて、高校出たての若者だから、当然と言えば当然である。
ただ、かなり老齢になってから冒険者としての資質に目覚める者もいないわけではなく、絶対とは言えない。
まぁ、ほとんどが冒険者系の高校を出てそのまま就活だから、年齢がいってる人は珍しくはあるんだが……それでも二割程度はいるのだった。
「しかし、《魔物料理人連盟》か。あそこが新人とるのは珍しいな」
そう言ったのは、カズだった。
「そうなのか?」
「あぁ。ギルドの名前は聞いたことあるだろ?」
「まぁ、冒険者なら誰でも聞いたことあるくらいには有名だからな……迷宮で帰れなくなったりした時に、絶対覚えとけって言われる魔物料理、その走りなんだし」
「そうそう」
《魔物料理人連盟》とは、その名の通り、魔物を料理して食べることに命をかけている、一風変わったギルドである。
大規模ギルド、とまではいかないが、それに近い規模を誇っているが、彼らはどちらかといえば、その子会社にあたる一般企業の方で利益を得ている。
それは、魔物を料理の素材として流通させる会社だ。
最も分かりやすい精肉の流通から始まり、実際に料理として販売しているレストランの営業まで含んでいる彼らの商売は、魔物というものを資源として余すところなく活用している、ある意味で最も冒険者らしい集団かもしれない。
まぁ、別に彼らしかそれをやっているところがいないわけではないのだが、彼らが有名なのは、早い時期から魔物が食用として活用できることに気づき、そしてそのために様々なメニューの開発を行い、それを世間に送り出したことだろう。
それらの知識は、俺が通っていた高校などでも教えられる。
主に、サバイバルというか、迷宮で遭難したときに、魔物を倒して腹を満たせ的な意味でだ。
もちろん、そうでない場合の料理もたくさんあるのだが、そういうのは家庭科で普通に学ぶからな……。
「でもなんで新人とるのが珍しいんだ? 魔物の料理ばっかしてるって言っても、基本は冒険者のギルドだろ」
「そうなんだが、あそこに入るためには冒険者としての実力以上に、料理人としての技術や情熱、知識も求められるらしいからな。それに見合う人材がいない限りは取らないんだよ。だからな……」
「あぁ、聞いたことはある……まぁ、それもあって俺は最初から視野に入れなかったから詳しくは調べてないけど、そんなになのか?」
「子会社の方なら普通に入れるが、ギルドの方はな。世界的な料理人が入りたいと言っても断ったらしいぜ。まぁ、冒険者としての実力がお粗末すぎたらしいから当然といえば当然なんだが、一応入れて、料理だけして貰えばいいだろうによ」
「そりゃ筋金入りだな……」
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