第181話 見応え

「……意外と見応えがあるな。新人しかいないから、そんなに派手な感じじゃないと思ってたけど」


 会場中心に設置されている、特殊な材質で作られたステージの上で、二人の新人冒険者たちが戦っていた。

 片方は剣士であり、もう片方は槍使いである。

 どちらも冒険者には好まれる武器だな。

 ただ、この組み合わせだと槍の方がリーチ的に有利になりそうだが、冒険者同士の戦いは意外とそうはならない。

 なぜかといえば、言うまでもない話だが、スキルがあるからだ。

 例えば、剣士の方が剣を振るうと斬撃が、比喩でなく形を持って飛んでいく。


「……新人と言っても、やはりこの大会に出るのはそのギルドでも有望、と見られている方達に限られますからね。今使われたスキルは……《下級剣術》の中の《飛刃》ですけど、かなりの練度だと思います。ステータスもE級にしてはかなり高いですね」


 そう言ったのは、静さんだった。

 スキルはその発動の仕方や、予備動作、魔力の動きなどからそれがどんなスキルか判別することが出来るが、通常はそこまで一瞬で分かりはしない。

 もちろん、有名なものやよく見られるものについては、高校でも勉強するし、テレビでも見るから判別が可能だが、そうではないものや、類似のスキルが多いようなものについてはそうは言えない。

 《飛刃》については《下級剣術》以外にも他の武術系スキルに含まれているし、武具が違っても発動できることは確認されている。

 また、《風術》に含まれる《風刃》にも似ているし、他にも無数に類似スキルがあるから、見分けにくいものの一つである。

 ただ、静さんは知っての通り《万物鑑定》を持っているので、それによって一発で見抜けるわけだな。

 ついでにステータスも見たらしい。


「ちなみにどのくらい?」


 雹菜が尋ねると、


「おおむね全て30半ば程度はありますね。バランスの取れたタイプのようで、偏りがありません」


「30半ばか……」


 あまり高くないように思えてしまったため、そう呟く。

 実際、これは高校卒業時の慎のステータスに近いからだ。

 けれど、一般的なE級のそれと考えると、決して弱くはなく、むしろ優秀と言っていい数字である。

 

「相手方もステータスは似たような感じですね。ただスキル構成がだいぶ違っていて……」


「あっ、《土術》だ!」


 槍使いの方が槍を振るい、それを剣士が後退して避けると、その足元から岩で出来た槍が飛び出してきたのを見て、樹がそう言った。

 確かにあれは《土術》だな。

 下級に分類されるものの一つで《岩槍ロックランス》と呼ばれているものだ。

 

「いいタイミングで打ち込んだものだけど……へぇ、ちゃんと気づいて避けてるわね。。勘が良さそうだわ、あっちの剣士」


 実際、剣士はなかなか避けられなさそうなタイミングで放たれたそれをしっかりと回避した。

 俺や雹菜なら魔力の動きを視認して何か放ってくるな、とすぐに察知できるが、通常の冒険者はそうはいかない。

 肌に感じる魔力を察知するとか、空気の揺らぎから感じ取るとか、そういうやり方しかないが、あの剣士はそれを既に身につけているわけだ。

 そしてそのまま剣士は槍使いに向かって距離を詰める。

 槍使いの方は自分の攻撃がほぼ完璧なタイミングで嵌ったと思ったのか、少しばかり油断していた。

 そこを狙われる形だったので、少し槍が遅れる。

 それが致命的となり、懐に入られてしまった槍使い。

 その首筋には剣が突きつけられていて、それを確認した槍使いはがっくりと肩を落とし、敗北を宣言したのだった。

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