第180話 賭け

『さぁ、今回の出場者は……こいつらだ!』


 アドベンチャラー雷豪による、会場を盛り上げるための前置きが終わった後、かっこよさげなオーバーチャーがBGMとして流れ始める。

 そして、出場者たちが会場へと入ってきた。


『……まず先陣を切るのは《闇黒あんこく月士げつし》の新人たち! 会場の皆さん、盛大な拍手と共にお迎えを!』


「《闇黒の月士》かぁ……五大ギルドの一つだな。俺も落とされたっけ……」


 アナウンスを聞きながら、俺がそう呟くと、雹菜が、


「本当にどこでも受けてるわね……ちなみに何個目だったの?」


 と尋ねてきたので俺は答える。


「一つ目だよ。第一志望だった」


 そう、ここが俺の第一志望。

 人生で最も最初に受けた、就職試験先だ。

 まぁ、最初に受けることになった理由は第一志望だから、というだけでもないが。

 大規模ギルドでも五大ギルドの就職試験は最も解禁が早く、その中でも人気があるここは三年の初めにはすでに就活が始まっていた。

 そして、俺にとって非常に望ましかったのは、その時点でスキルを身につけていなくても、とりあえず最初の集団面接は受けられるということだった。

 で、一次は通ったのだが、結局、二次試験が始まる時までにはスキルがなければならなかったので、そこで失格となってしまったのだが。

 そんな話をすると、雹菜は少し苦笑して、


「……そこで落ちてくれて良かったわ。じゃなきゃ、私は創に会えなかった」


「まぁ、そうなんだけどな……名前聞くだけでちょっと悲しくなってしまうギルドだよ、俺的には」


「それはそうでしょうね。しかしやっぱり五大ギルドだけあって、新人の実力も中々ありそうね。身のこなしが既にある程度出来上がっているわ」


「そうなのか? その辺は俺にはイマイチ……」


 ああいう動きなら俺にも出来そうだな、とどこかで考えつつそう言った俺に、雹菜は、


「器用の数値がぶっ壊れてる創ならそう思うのかもしれないけどね。重心にブレがないし、どこから何がきてもすぐに対応出来るような心構えを持ってるのが感じられるのよ」


 この台詞は、俺が誰の動きを見ても概ね初見で真似できてしまうことを指している。

 おそらくは器用から来ているのだろう、という話になっていて、だからこそ、というわけだ。

 そのため、今の俺の戦い方は、雹菜や、テレビや迷宮で見た実力者の動きからパクれそうなものをパクっているというごった煮武術になっていて、たまに気持ち悪いと言われる。

 

「そういうもんか。じゃあ、慎や美佳には厳しいか?」


「……それはまた話が別ね。あの二人は……あぁ、来たわ」


 五大ギルドから始まり、いくつかの大規模ギルド、それに中小ギルドの新人たちが会場に入ってきた後、最後の方になってやっと慎と美佳が現れる。

 その動きはカチコチとして緊張しており、若干だが周囲の観客から笑いが漏れていた。


「おい、にいちゃん、姉ちゃん! もうちょっと緊張を解せよ!」「応援してるぜ! 全力を尽くせば負けたっていいんだからな!」


 そんな野次というか、応援が飛ぶ。

 割とこのギルド新人戦というのはアットホームな大会で、終わった後は基本的にノーサイドというのが例年のお決まりだ。

 従って、観客たちもあまり強くは煽らない。

 もっと高位の冒険者たちが出場するような大会になってくると、公営ギャンブル要素が強まるのも相まって殺伐としているのだが、ギルド新人戦は本当に誰が勝つのか予想し難いので、そこまで本気でどこかに肩入れするやつはいないからだな。

 ちなみに、俺たちは慎と美佳に賭けるつもりでいる。

 賭けの形式は一回戦ごとの勝敗に賭けるものと、最終戦績に賭けるタイプとがある。

 前者より後者の方が当然、倍率が高いが、後者についてはいつでも賭けられるが、大会が進んでいくに連れてオッズが下がっていくから早めにかけた方がいい。

 俺たちはどっちもかけるつもりだが、流石に優勝に賭けると絶対とはいえないので、そっちの金額は少なめでいく。


「……緊張しまくってるけど、大丈夫かな、あいつら」


 俺が呟くと、雹菜は、


「うちの運営費がかかってるんだから、勝ってもらわないと困るわよ!」


 と、欲に塗れた視線で言っていた。

 どうも、ギャンブル好きなのかもしれないな、この人は、と思った。

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