第179話 司会
『……さぁ、皆様。本日は一年のうちで、最も希望溢れる祭典、ギルド新人戦にようこそいらっしゃいました!!』
そんな出だしから始まったアナウンス。
「……この暑苦しくも聞き取りやすい声は……アドベンチャラー雷豪さんね」
雹菜が少し微笑みながらそう言った。
「よくテレビに出てるあの人か」
俺もその名前には聞き覚えがあり、また顔も知っている。
「分かりやすく冒険者!って格好して二十年くらい活動してるもんね。昔はコスプレっぽいというか、コスプレ扱いされてたけど、みんな見慣れちゃって、冒険者といえばああいう感じってなっちゃってるし」
樹がそう言う。
アドベンチャラー雷豪は、かなり昔から活動している冒険者であり、通常の企業に所属しているタイプの、今では比較的珍しいジャンルの冒険者だ。
もちろん、今でも一般企業が冒険者を求めることはあるのだが、その場合は大抵、ギルドへ依頼を出したり提携という形をとる。
ただ、アドベンチャラー雷豪が冒険者になった頃は、ギルド関係の法制度が不十分であり、また、一般企業が冒険者を奪い合って争奪戦のような様相を呈していた。
次第にその空気感は落ち着き、今のようにギルドが主体性を持って冒険者を管理していく体制にたどり着いたが、そこに至るまでには色々と歴史があるわけだな。
で、その際に一役買ったのが、アドベンチャラー雷豪だ。
冒険者、という存在を分かりやすく示し、価値や面白さを広め、そしてエンターテイメントまで昇華したのは彼の功績だとまで言う者もいる
言い過ぎな気がしないでもないが……しかし事実の一端であるのは間違いない。
彼は当時、あまり顔を出したがらない冒険者が多かった中で、堂々とその顔を晒し、自分の活動や力を公開したのだ。
そして芸能界へと食い込み、今では他の誰にも追随できないような地位を築いている。
ただ、尊敬すべきはその主体はいまだに冒険者としての自分にあり、こういったイベントなどで司会をしたり、新人冒険者向けの講演やら、一般人への冒険者に対する偏見をなくすための活動などに従事しているところだろう。
忙しすぎるのか、冒険者としてのランクはC級上位止まりのようだが、一般的に冒険者の大半がC級に上がれずに冒険者としての人生を終え、引退していくことを考えれば、芸能活動と両立しながらもそこまで至っていて、かつ未だ冒険者として現役であることはものすごいことだと思う。
まぁ、芸能人と冒険者を両立してるっていえば、うちのギルドリーダーもそうなのだが……そういえば。
「雹菜は知り合いなのか?」
さっきの口ぶりがそんな感じなので気になった。
知らない芸能人にあまり、さん付けはしないものだろう。
俺の言葉に雹菜は頷いて、
「ええ、たまに雷豪さんの番組に出させてもらうことがあるから」
「知ってるぜ、《アドベンチャラー雷豪の冒険者待機所!》だろ? あれ面白いよな……情報も満載だし」
そう言ったのはカズである。
「そうそう。冒険者系の番組は今じゃ結構あるけど、一番の長寿番組で、かつしっかり冒険者のこと分かって作ってくれてるの、あれくらいだからね。私もあれだけは断らないことにしてるの」
雹菜もそう答えた。
俺は、
「カズって見かけに合わず本当にミーハーだよな……」
「いいだろうが、別に。っていうか、俺は冒険者系の番組を創がそんな見てないのが意外だぜ」
「いや、俺だって見たいけど、俺に家でのチャンネル権はなかったからさ……妹と母さんがリモコン手放さなかったんだよ。だから恋愛ドラマには詳しいぞ」
「……なるほどな。巧と同じか」
そう言って振り返ると、巧が深く頷いていて、
「創……今度、おすすめの恋愛ドラマについて語り合おう」
などと言っている。
彼もまた妹にチャンネル権を奪われているのだろうか?
小学生だと言う話だが……まぁ、女の子というのはそのくらいから既に女か……。
「男二人で恋愛ドラマで盛り上がるのもあれな気がするけどな……」
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