第178話 ギルド新人戦
「……いや、これすごいな。規模がハンパないぞ……」
ワイワイと大勢の人々の声が響く会場の中でそう言ったのは、俺、天沢創であった。
会場、つまりここは、今年度のギルド新人戦の開かれる会場である。
しかも、その辺の市民会館ではない。
十年ほど前に、大海嘯によって破壊され、そして三年前にあらためて建設された国立闘技場であった。
以前は国立競技場、と言っていたが、立て直された後は冒険者たちのイベント関連で使われることが非常に多くなり、その結果、名称も変更されることになった。
通常のスポーツも現代でも別になくなってはいないし、頻繁に行われてはいるものの、流石に以前、海嘯を起こした迷宮が近くにある競技場は避けたいという意向が強く、あまりそちら方面の利用が多くなくなったのも影響している。
それでもたまに使われはするが、他の会場がどうしても使えないとか、そういう時が多いな。
それで経営に問題ないのは、さっき言ったように、冒険者関連の利用が大半を占めているからだ。
そちらの方が金払いもいいしな、今の時代。
「別に見るのは初めてってわけじゃないでしょ? 毎年、しっかりテレビで放映されているわけだし。まぁでも、見ない人は見ないか。甲子園みたいなところあるしね」
横にいる雹菜がそう言った。
今日は、このギルド新人戦に慎と美佳が参戦する。
そのため、俺たち《無色の団》総出で応援に来たのだった。
俺や樹、それにカズや巧もまた、新人戦に出られる資格はあるのだが、全員が申込期間の関係で今年は無理だった。
なので俺たちは応援側である。
ちなみに、ギルドビルについては今、完全なる留守であるが、流石にあそこを襲撃する人間はいないだろうし問題はない。
通常の人間であればまず入れないような魔道具による罠がいくつも存在しているし、冒険者がわざわざその立場を不意にする危険を冒してまで侵入して欲しいものはないからだ。
重要な魔道具の類は雹菜の家にあるし、最も大事なものは彼女が収納袋に入れて、腰に下げている。
そしてそんな雹菜から収納袋を奪えるような人材はそうそういない。
何せB級冒険者、しかも静さんに言わせれば、ステータスはA級並みだというのだから。
「甲子園はスポーツマンシップに則った戦いだが、ギルド新人戦は純然たる戦いだからな……見ないやつは見ないだろう」
そう言ったのは、巧だった。
「なんだよ、巧も見なかった方か?」
俺が尋ねると、
「俺にはまだ小学生の妹がいるからな。教育に悪いだろうと思ってそういうのは見せん」
「そういう理由か……カズは?」
「俺はよく見てるぜ。雹菜さんが誰も寄せ付けずに優勝したところもしっかり見た」
「ちょ、ちょっと。その話は……恥ずかしいからやめてよ!」
雹菜がそう言った。
そうだった、これでこの人はこの世代一の化け物で、かつてギルド新人戦をぶっちぎりで優勝している。
その時から見た目と相まって注目の的になり始め、そして今のアイドル的人気へと繋がるのだ。
ちなみに、そういう身の上のために、今の彼女の格好はマスクにサングラスに野球帽にダサめのズボンとシャツである。
それでもまた、どこか洗練されているような雰囲気がしてくるので物凄いものだが、なんとか周りは気づいていないようだった。
普段ならその辺を歩いていても、あくまでも冒険者について詳しくないような世代とかそもそも興味ない人たちも少なくないから気づかれないで住んでいるが、この会場に来ているのは筋金入りの冒険者ファンたちだ。
しかも、ギルド新人戦などというまだ名前の売れてない者たちを将来、古参ぶるために見に来ているような。
雹菜の顔を見れば一発で気づくに決まっているからこその変装だった。
とはいえ、
「……うーん、なんかさっきからチラチラ見られているような」
そう言ったのは樹である。
樹はその苗字だけは世界中に知られているが、樹自身の顔も名前も知られていないから一般人だと思われているだろう。
ただし、見た目は随分と可愛らしい、女の子、のように見える。
見ようによっては美少年にも見えるため、男女問わず、視線を結構集めているのだった。
「無理に話しかけてくるようなのはいないからまぁ、いいだろ」
「まぁね……カズと巧のお陰かな」
「おい、俺たちをコワモテ扱いすんなよな」
「同感だ」
二人揃ってそう言うが、残念ながら彼らの顔を見て顔を逸らす人が大半なので、事実なのだった。
体も大きいし、筋肉も相当あるように見えるからな。
やはり重戦士は迫力が違う。
「いいコワモテなんだから構わないだろ……あ、席ここだな」
今まで席を探しながら会場を歩いていたわけだが、見つけて俺たちは腰掛ける。
そしてそれとほぼ同時に、
「……後五分ほどで開会式が始まります。会場にお越しの皆様は、席にご着席ください。繰り返します……」
そんなアナウンスが響いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます