第184話 慎の試合

「……お、美佳。お前試合はいいのか?」


 観客席でしばらく観戦していると、美佳がやってきた。


「別に大丈夫よ。二回戦までしばらく時間あるからね。それに慎の試合も見たいし……あっ、ほら、入ってきた」


 言われて見てみると、入場ゲートの向こう側にいる慎の姿が見える。

 そして先ほどのようにアドベンチャラー雷豪のアナウンスが響き……試合が始まった。


「……慎、頑張って……!!」


 祈るようにそう言っているのは美佳だ。

 やはり、好きな人が戦っているとそんな風になるものなのだろうか。

 俺は……どうかな。

 今のところ、よく分からない。


「……つっても、流石に危なげないな。一回戦でどうにかなるってことはなさそうだ」


 俺がそう言ったのは、慎の戦いぶりと、相手の実力を見てのことだった。

 ギルド新人戦は基本的にトーナメント制である関係で、一回戦でいきなり強敵と当たる可能性もある。

 そういう選手たちは意図的なのか、結構バラけて配置されているもので、誰と当たってもおかしくないのだ。

 慎がもし、そういう強力な選手と同じカテゴリだと大会主催者側から見られていたら、当たらないで済んだかもしれないが、所詮俺たちというのは冒険者業界ではまだまだ新参者に過ぎないからな。

 そういう配慮はされない。

 まぁ、別に大規模ギルドとかには配慮をしますと主催者が言っているわけではないのだけどな。

 なんとなく配置を見る限り、そんな空気をみんな感じているというだけで。

 それで文句が来ないのは、むしろ強力な選手にはバラけてもらっていた方がみんな都合がいいからだ。

 それぞれのギルドも、放映権を持っているテレビ局も、運営としてもだ。

 その方が盛り上がるっていうものだな。

 あくまでも、トーナメントの枠の位置に配慮があるというだけで、試合自体は見ての通りみんなガチンコで挑んでいる。

 そこに八百長がない限り、そのくらいのことはみんな普通に飲み込むのだった。


「相手の方もなかなか悪くないけど、そもそものステータス差が大きいわね。それに加えて技量も臨機応変さも全て慎くんが上回ってるわ……あっ、決着ね。あっけないけど、この辺だとこんな物でしょうね」


 雹菜がそう言った。

 ステージでは慎が槍を相手に突きつけているところだった。

 相手の方は既に地面に膝をついており、手から武器も失っている。

 完敗、と言っていいだろう。

 

「おい、美佳。しばらくは慎も勝ち上がるだろうから、そんなに心配いらなかったんじゃないか?」


 もう祈るポーズはやめて、ガッツポーズをしている美佳にそう言うと、


「それはそれ、これはこれよ。それに私は慎がかっこよく戦ってるところも見たいの」


「……なるほど。それは分からんでもないか。でも美佳……呼んでるぞ?」


「え?」


 首を傾げた美佳だったが、ふとアナウンスの声が、


『……《無色の団》所属の山野選手、《無色の団》所属の山野選手。試合の時間が迫っております。控室までお戻りください……』


 と言っていることに気づいたらしく慌てて、


「やっば。もうそんな時間……! 教えてくれてありがと、創! 行ってくる!」


「おー、頑張れよ」


 そして慌ただしく去っていった。


「あんなんで次の試合、戦えるもんかね……?」


 首を傾げる俺に、


「大丈夫じゃない? 彼氏と対戦するまでは死ぬ気で勝ち上がろうとするわよ、きっと」


 雹菜がそう言ったので、俺は震えて、


「それもまた物騒な関係だな……」


 そう呟いたのだった。

 実際、そこから美佳はガンガン勝ち上がり、そしてついに準々決勝まで上った。

 残念だったのは、同じく慎もそこまで辿り着いたところだな。

 トーナメント表の位置によっては決勝で会う、なんて洒落たこともできただろうに。

 しかしステージ上の二人を見る限り、嬉しそうなのでまぁ、いいか、という気分になってくる。

 どんな試合になるか、楽しみだった。

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