第185話 煽り

『……さぁ、ギルド新人戦もそろそろ大詰め。ついに準々決勝だ! ここまで辿り着いた出場者たちは、いずれも猛者揃い……その中でも、最も数奇な運命に彩られた二人が、今、ぶつかる!!』

 

「……煽るなぁ……」


 アドベンチャラー雷豪のアナウンスに俺は思わずそう呟く。

 まぁ、確かにここまで登った顔触れを見る限り、組み合わせ的な面白さはここだろうとは思うのだが。


「煽ってなんぼでしょ、こういうののアナウンスなんて」


 雹菜が苦笑しながら言う。


「まぁそうなんだけどさ。自分の知り合いの対戦でここまで煽られると、あんまり緊張させんなよ、と思っちゃうんだよ」


「気持ちはわかるけど、大丈夫じゃない? ここから見える二人の顔、どっちもそんなものとは無縁そうじゃない」


「……ほんとだな」


「えー、どれどれ? あぁ、なんだか……こう、遠いのに、見つめ合ってるというか、二人の世界というか、そんな感じだね」


 樹が後ろから顔を乗り出してそう言った。


「……全く、リア充ってやつは羨ましい限りだぜ。喧嘩すら恋を盛り上げるスパイスにしかならないのか……」


 カズが本当に羨ましそうな表情でそう言った。


「カズ、あんたは彼女とかいないのか?」


 俺がそう尋ねると、カズはため息をついて、


「この顔にいると思うか?」


 と言ってくる。

 イケメンじゃない俺にそんなものが作れると思うのか、と言いたいんだろうが……。


「別に悪い顔じゃないと思うけどな。まぁ、分かりやすいイケメンとかじゃないけど、そうじゃなきゃ恋人ができないってもんでもないだろ。それに、そんだけいい体格してて、顔も強そうってきたら、好きな人は好きなんじゃないか? ほら、なんていうか……」


「守ってくれそう系?」


 横合いから樹がそう言った。


「そうそう。少なくとも女の子の隣にカズがいたら、ナンパしようという気にすらならないな……」


 喧嘩になったら間違いなくやられる。

 そう思わせるような迫力がカズにはある。

 顔にも体格的にも。

 実際、冒険者であるから一般人なんてまるで相手にならないわけで、内実も含めていい物件だと思うな。

 付き合ってみれば義理堅く真面目な男だし。


「そ、そうか……? うーん、なんか合コンとか行ってみるかな……」


 その気になっているカズだった。

 そんな話をしている間にもアナウンスは進む。


『……みんなも知っての通り、ここまで勝ち上がったこの二人は今日まで無名だった! だが、そのギルドの名前には聞き覚えがあるだろう…… 《無色の団》! あの白宮雹菜が創設した、新進気鋭のギルドだ! そしてそこに属する二人の新人も、やっぱり普通じゃなかった! 初出場にして、スルスルと準々決勝まで来てしまった!』


 ギルド新人戦は出ようと思えば複数回出られる。

 ただ、ギルドに所属してから三年間未満まで、なので実質三回までだな。

 大体、上位になれるのは二年目、三年目の新人になる。

 実際、ここまで残ってる他の出場者は、ほとんどが二年目三年目だった。

 アドベンチャラー雷豪のアナウンスは続く。 


『しかし! 運命は決して優しくはなかった! トーナメント戦という形式のゆえに、同じギルドの二人がここで潰し合うことになってしまったのだ! そこに生まれるのは、憎しみか、友情か……それとも!!』


「それともなんだよ……」


「よくある感じじゃない……」


 俺のツッコミに雹菜が適当に返す。


『ともあれ、我々には二人の戦いを観戦することしかできない! さぁ、ギルド新人戦、ソロ部門、準々決勝……始めっ!!』


 そして、二人の戦いが始まる。

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