第456話 順調な戦い
「……行くぞ!」
賀東さんのそんな声と共に、俺たちは走り出した。
あまりにも固まりすぎてもまずいため、しっかりと距離を取りつつも、けれど守りきれないと困るため、それなりの距離で。
しかし、レッサードラゴンはそんな俺たちを目の前にしても、中々動き出すことはなかった。
それは、俺たちなど、奴にとっては大した敵ではないという余裕からだったのかも知れない。
けれどそのことについて問題にする冒険者はここにはいない。
なぜと言って、そうやって舐められている状態こそが、俺たちにとっては最も都合がいいからだ。
本来なら生まれないはずの大きな隙を、攻撃のチャンスを、その対象であるレッサードラゴン自身が自ら作り出してくれるのだ。
感謝こそすれ、恨むのは筋違いである。
実際、
「……よし、一撃ぶちかませ!」
もう少しで目の前、という地点で賀東さんがそう叫び、前衛の戦士系冒険者たちはタメを作る。
何のためのタメか、というと、スキルのタメだ。
スキルには極めて攻撃力が高いが、一定時間のタメが必要とされるタイプのものがあり、最もわかりやすいのは術士系が広範囲攻撃をするときなどが挙げられる。
しかし、戦士系にもこのようなスキルは存在するのだ。
ただし、近接戦闘中にタメを作るなどかなりの危険があるため、中々使われることはない。
使い所が難しいスキルなのだ。
けれど、今回のレッサードラゴンのような、ボスの場合はむしろ非常に使いやすいスキルとなる。
一定距離まで近づかなければ動かず、かなり接近しても最初は様子見してゆっくりとしか動かないようなボスに対しては。
事実、前衛の戦士系冒険者たちのその初撃を、レッサードラゴンは全く避けずにその身で受けた。
「……よし、盾!!」
そしてそのまま追撃……とは行かなかったのは、レッサードラゴンがその腕を大きく振り上げたからだ。
それを視認した前衛たちは素早く後退し、盾職系冒険者たちの背後に隠れる。
盾色系冒険者はそのすぐ後に、防御系スキルを協力して放った。
それは驚くべきことにレッサードラゴンの巨大な前腕の薙ぎ払いを弾き、冒険者たちに対するダメージを通さなかった。
さらに、レッサードラゴンはその攻撃の反動で少しばかり後退する。
その瞬間を狙って、
「術士! ぶっ放せ!」
賀東さんがそう叫び、術士系冒険者たちが、術を一斉掃射する。
そのいずれもが高位の術ばかりで、その破壊力たるや目を見張るものがあった。
レッサードラゴンに命中すると全てが轟音を立てて、その鱗を剥がしていく。
これなら……。
『行ける、行けるぞ!』
『倒せる!』
冒険者たちのそんな声が響く。
そこからも賀東さんたちの指示が飛び、幾度となく攻撃が加えられていく。
もちろん、レッサードラゴンもそんな攻撃の合間を縫って、俺たちに向かって前腕を振るったり、翼をばたつかせたりしたが、全て盾職系冒険者たちのスキルに弾かれる。
「……このまま行けそうだぞ」
俺も思わずそう呟くが、流石にベテランである雹菜はこの辺り、かなり冷静だった。
「そうなればいいけど、そう簡単にはいかないのがボス戦というものよ……あぁ、来るわ!!」
雹菜がそう叫んだのは、レッサードラゴンの口元に大量の魔力が集約していたからだ。
魔力を視認できるのは、この場においても俺と雹菜しかいないようで、それを聞いた賀東さんが、
「……盾!!
と叫んだ。
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