第455話 レッサードラゴン

 《初期職転職の間》から飛ばされると、ゾッとするような気配が肌を突き刺した。


「……これが、レッサードラゴン……!!」


 誰が漏らしたかは分からないが、一緒に飛んできた冒険者の誰かがうめくようにそう呟いた。

 そんな反応になるのも当然で、目の前……部屋の中心にいるその存在感は、立っているだけでも感じられるほどに大きく、迫力があり、かつ視線も鋭かった。

 

 より劣るレッサーの名前を冠する、ドラゴンの中でもおそらくは最弱の部類に当たるはずのその存在。

 しかし、そんなことが信じられないほどの威圧感がある。


 体色……というか、鱗の色は朱色であり、腹部は黄色味がかった白。

 瞳は黄金に輝いていて、爬虫類との共通性を示すように縦に縦に瞳孔が走っている。

 体長ははおよそ十五メートルほどだろうか。

 しかし、その翼を大きく広げれば、二十か、二十五メートルほどになりそうに思えた。

 またその口には巨大な牙がいくつも覗いている。

 一本一本がまるで大剣のようであり、もし確保できればいい素材になることだろう。

 後ろ足には猛禽類の何倍も鋭く、巨大な爪が地面を掴んでおり、前足は可動域はそれほど広くなさそうなものの、何かを掴むのには十分な器用さを持っているように感じられた。

 実際、前回の戦闘ではその前足や後ろ足に握りつぶされた冒険者も多いと聞く。

 決してその顎だけが武器ではなく、体の全てがこのレッサードラゴンの武器なのだということを、しっかりと頭の中に入れておかなければならなかった。


「……本当に、すぐには動かない、な」


 誰かがそう呟くと、賀東さんが言う。


「……事前に説明した通り、あのレッサードラゴンはある程度の間合いに入るまでは不動だ。だが、近づけば間違いなく襲いかかってくる。だから、その前にしっかりと陣形を整えるのが大事……ってまぁ、言われずともすでにみんな動いてるようだがな」


 事実、飛ばされた直後に、冒険者たちは素早く動いて陣形を整えていた。

 何人だろうと、一緒にこの部屋に飛ぶことは出来るが、その位置関係はバラバラになってしまうため、入った直後に整えなければならないのだ。

 数人だったらそこまで気にすることではないが、四十人ともなると、しっかりとした事前準備と相談が必要だった。

 それでもここに来ているのは大半がトップクラスの冒険者ばかりだ。

 そんなことは当たり前だと言わんばかりにさらりとこなしてしまった。

 最前には一撃目の攻撃を担う、戦士系が、そのすぐ後ろには盾職系が、その少し後ろに術士系が陣取っている。

 俺と雹菜は最後尾にいるが、これはレッサードラゴンと戦ったことがまだない者たちが、とりあえず少しの間はレッサードラゴンの動きを観察しておけということでそこに配置されているのだ。

 戦闘に参加できそうだ、と判断したら、他の班を邪魔しない程度に遊撃という形で参加するようにと言われている。

 雹菜はそれで行けるだろうが、俺はどうか、少し不安ではあった。

 まぁ、それでも俺には補助術系を雹菜にかけることで貢献できるから、そこまで前で参加する必要はないと雹菜にも言われている。

 他のみんなにもかけるかどうかは考えたが、意外に慣れないと感覚が違って難しいところがあるのが補助術系だ。

 しかも、他の人の補助術と重ねがけしてしまうと危険な結果が生じる場合がある。

 そのため、今回のところは基本的に雹菜だけに、いざという時、他人にかける場合は補助術がかかっていない相手に限定する、ということでやっていく予定だ。

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