第432話 出発
「……種族の保護と権利意識か。大事だが、行きすぎると……」
「ええ、ゴブリン保護団体が騒ぎ出すのよね。まぁ、その辺も、本人というか本ゴブリンたちがしっかり主張を表明できるようになれば、社会は無視するようになってくでしょうけど」
俺の懸念に、雹菜がそう言って締めた。
それから、
「そうそう、今日はみんなで《転職の塔》に行くわけだけど、準備はいい? それと新しい職業になりたかったらついでになっていいけど」
そんなことを言った。
そうだ、今日はジャドを連れてみんなで《転職の塔》に行く予定なのだ。
その理由は簡単で、ジャドのステータス欄にはしっかり職業欄がある。
そのため、彼もまた、人類と同じように転職が出来ると考えるのが自然だった。
この点についての実験はジャドが言うに、政府の方に連れられてやってはいないという。
なぜかと言うと、政府的に《転職の塔》には若干のトラウマがあるらしく、出来るなら外注して調べてきて欲しい、ということのようだった。
政府のトラウマ、というのはあれだな。
平賀総理が閉じ込められたやつ。
総理自身は気にしてないようなのだが、周りがだいぶナーバスになっているらしい。
まぁ仕方ないと言えば仕方がない話だな……。
ジャドはまだ、《転職の塔》に行ったことがないためか、それとも他に理由があるのか、残念ながら《転職の祠》を使用することができないため、徒歩で行かなければならないというのもある。
政府の送迎車でやってきて、一般人を押し除けて通せ、と言ったらジャドの存在が目立ちすぎるしな。
マスコミが大量にやってきて面倒臭いことになることも考えられる。
俺たちがささっと連れていってしまうのが一番、リスクが少ないだろう。
「俺は別にいいけど、黒田さんや静さんは?」
「私は大丈夫。《翻訳士》のスキル、なんだか今、色々増えてきてるから。《エルフ語》とか《ドワーフ語》とかも出てきたよ」
「え、そうなんですか? 一体なぜ……」
「多分、存在を知ったからじゃないかな? 総理から聞かされて……その後に確認したの」
「なるほど……」
ゴブリンについては事情がちょっと違うから、出現条件も違うのかな?
やっぱりスキル取得についてはいまだに謎が多い……まぁどう頑張っても俺は一個も得られないのだけど。
模倣できるからいいんだけどさ。
ただし、《翻訳士》のスキルというか、言語系が特殊すぎるのか、こればかりは真似ができない。
ゴブリンの言葉は分かるから必要ないのだが、エルフとかドワーフとかと話すのは俺には厳しいのだろうか……。
まぁいいか。
「静さんは転職とかいいんですか?」
「私はそうですね……《翻訳士》になりたいかな、とは。ゴブリン語はあった方が便利そうですし」
「あぁ、なるほど。そうですよね、黒田さん一人に任せきりだと……」
大変そう、というのもあるし、色々話せない話も黒田さんにはまだあるから、そういう時に静さんが話せる方が都合がいい。
「最近、稼働させっぱなしなので、お休みが必要でしょうし。出来れば三人くらいはいた方がいいと思いますが、まぁその辺はおいおい、と言ったところでしょうか」
「ですね。じゃあ、そんなところかな、雹菜」
「ええ。では行きましょうか。ジャドもいいかしら?」
『構わない。なる職業は、《翻訳士》ということで構わないな?』
そう、ジャドに選んでもらいたいのは、実はそれだ。
なぜかといえば、ジャドが選べば日本語なりなんなりがスキルとして得られるのではないか、という希望があるからだ。
そうでなくても、《翻訳士》になれば語学系の学習能力が上がることはわかっている。
ジャドも今では簡単な日本語の聞き取りくらいはできるようになりつつあるので、それを加速して、日本語での会話をできるようになりたい、というのが今回の目的であった。
「その通りよ。あればいいんだけどね……ない場合は趣味で好きなの選んでもらっていいから」
『うむ、承知した』
そして確認が終わった俺たちは、《転職の塔》に出発する。
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