第433話 声

 《転職の塔》に辿り着くと、意外にも周囲は賑わっていた。

 お祭りのように様々な出店が出ている。

 食べ物屋も多いが、冒険者向けの武具や魔道具などを売っているショップも結構あった。


「なんだか様変わりしてるな……」


 俺が思わず呟くと、雹菜が言う。


「私たちはほとんど、《転職の祠》経由で来ちゃうから外の光景見ることないもんね。でも、祠経由してそのまま東京観光とかしようって地方勢は割と扉から外に出てくるから。そこそこ繁盛するみたいよ」


「あぁ、なるほど」


 《転職の祠》は、《転職の塔》へ向かうための転移装置だが、当然のこと、各地へただ転移するためにも使える。

 そしてこの《転職の塔》周りは、《転職の塔》があるがゆえに、結構開発が進んでいて、東京の他の地域へのアクセスも良く、ここから観光に向かうには悪くない立地だ。

 ホテルやビルとかも雨後の竹の子のように建設されているしな……。

 ビルには地方の有名ギルドの支部とかが入ったりしているから、そこを拠点に東京の迷宮を回っても良いし。

 ただ、俺たちのような東京在住の冒険者は、近所の《転職の祠》からそのまま地方へ行くのが普通なので、《転職の塔》からわざわざ出たりはしない。

 その辺の需要の違いがあるのだな。


「暇だったら色々見て回ったも良かったけど、今日はジャドの転職が目的だから。早く中に入りましょ」


 雹菜の言葉に頷いて、扉に触れる。

 そしてその場から《転職の間》に転移するが、そのとき、声が聞こえた。


《オリジンの入場を確認しました》

《オリジンと共に他世界種族の入場を確認しました》

《《多種族共生主義》の選択を確認しました》

《《転職の塔》の機能の一部のロックが解除されます……》

《新機能《種族選択》《種族進化》が追加されました》

《新機能は人類にも適用されます……最適化中……完了》

《《ステータスプレート》への反映……完了》

《それでは、今後も《転職の塔》をよろしくお願いします》


 ******


「……おい、みんな聞いたか……?」


 同じ《初期職転職の間》に、全員が転移したのを確認してから、俺はぽつりと口を開く。

 主語は一切なかったが、それでもみんなの表情から何が起こったのか、俺は大体察していた。

 もしかしたら俺しか聞いていない可能性もあったが、やはり、そんなことはないらしいと次の瞬間口を開いた雹菜の台詞から理解する。


「……聞いたわよ。《種族選択》に《種族進化》ですって? 一体何が……」


「あの、あの声って一体……そもそも《オリジン》って、なに……?」


 黒田さんが困惑するように呟く。

 もうこうなったら話すしかないが、とりあえず、と言った口調で雹菜が言った。


「その単語は私たちのギルドにとって非常に重要よ。だから、ギルド外秘密……なんだけど、後で説明するわ」


「今まで教えてくれなかったのは……?」


「元々、外部契約だったからね……いずれとは思っていたけど。でも聞いてしまったら今しかないから」


「そうなの……でも分かった。それにそれよりも今は……」


「そうね。あの声の意味よ。どこまで聞こえたかも気になるけど。一緒に入った私たちだけなのか、全世界に聞こえたのか」


 これに俺は、


「《オリジン》って言葉が入ってるときは、俺たちにだけってのが多かったな。ただ、それ以外の部分は、全世界で聞こえている可能性が高いと思う。全世界に適用されてる話だろ、《種族選択》とか《種族進化》って」


「まぁ、そうでしょうね……でも、どうやってやるのかよ。確かめたいけど……」


 ここで静さんが、


「それなのですが、皆さんのことを鑑定すると、種族欄で選択可能種族、という欄が新たに追加されているようですよ」


 と口にした。

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