第468話 雹菜VS相良

 相良さんと雹菜がドーム中心にあるステージ上へと向かう。

 そして賀東さんが手をあげてどこかに合図を送ると、ステージを半球上に包むように結界が形成されていく。

 どこかに結界の操作室があるのだろう。

 また、あの結界はパッと見では半球上だが、地下にまで続いていて地下を貫くような攻撃をしても問題ないようになっている。

 そうでないと、スキルでもって用意に貫く連中が普通にいるからな……。

 

 そして、完全に結界が張られると賀東さんが言う。


「よし、お前ら準備はいいか!」


 闘技大会みたいなのだったら審判も結果内に入ったり、最低でもかなり近くまで近づくが、今回はそういう決まりはないからな。

 それに、二人が何も気にしないで戦うためには誰も中に入らない方がいいのは言うまでもない話だ。

 結界ギリギリで観戦するのはするのだが。


 賀東さんの言葉に、二人から、


「こちらは問題ないわ!」


「私も準備万全です!」


 と返ってくる。

 それを聞いた賀東さんは、


「じゃあ、試合開始の合図をするぜ……二人とも、構えろ! 試合……始めっ!」


 そう叫んだのだった。

 

 *****


 賀東さんが試合開始を告げた直後、俺は二人が即座に動き出すのだと思っていた。

 しかし……。


「……二人とも、動かない?」


 俺がそう呟くと、賀東さんが頷いて、


「まず相手の出方を見てるんだろうさ……それに加えて、間合いの取り合いだな。一見ゆっくりに見えるが……お互いの体の僅かな身動みじろぎを見て、二人ともが次の瞬間の動きを変えてる。高速戦だよ」


 そう言った。

 なるほど、確かに言われてみると……。

 しかしこのレベルの駆け引きは、俺にはすぐには見抜けないな。

 経験がなければ……。

 実際に素早く動いても俺には見ることが出来るが、動くことなく予想の上でそれをお互いにやられると、何を考えて行動しているのか、経験不足の俺には読めない、というわけだ。

 対人戦はなんだかんだ雹菜と結構やっているのだが、こういう駆け引きをしたことは今までほとんどない。

 それは、俺の経験がまさに足りないから、なのだろうな。

 雹菜の練習にはなってなかったのかも?

 と思わないではないが、それなりに追い詰めたことはあるし、ハンデに重しをつけたりして工夫したりもしていたから、無駄ではなかったとは思う。

 

「もしかしてずっとあのままなのでしょうか?」


 世良さんも焦れてきたらしく、そう尋ねる。

 これに賀東さんは、


「……いや。動き出したら止まらないだろうからな。今だけだろうさ……お、来るぞ」


 そう言った直後、ぴくり、と雹菜が動く。

 するとその瞬間、相良さんの姿がブレた。

 速い!

 それにあれは……。


 気づけば、相良さんは雹菜の背後に出現し、短剣を降るっていた。

 雹菜もそれに気付いたようだが、まだ振り返れていない。

 もう決着がついてしまうのか、そう思ったが、


 ──キィン!!


 という音を立てて、相良さんの短剣は雹菜の首に当たることはなく、弾かれる。

 見ればそこには……。


「氷の盾、か。そういやかなりよく使ってるらしいな」


 賀東さんがそう言った。

 そう、雹菜の首にはいつの間にか氷の盾が出現していた。

 しかしそれは、以前、俺と戦った時に足場にしていたような薄いものではなかった。

 かなり分厚い丈夫そうなもので、実際相良さんの攻撃を弾いている。

 氷属性強化が効いているようだな、と俺は思った。


「まだ終わってないみたいです!」


 世良さんが相良さんの攻撃が続いてることに気づき、言う。

 実際、短剣が弾かれても、相良さんは動いていた。

 まず蹴りを放ち、それすらも氷の盾で弾かれると、短剣を持っている手の反対の手で正拳突きを入れる。

 しかし、それをのけぞって避けた雹菜は、そのまま飛び上がって下がる。

 そして、相良さんはそれを追いかけて地面を踏み切るが、そんな彼を狙って氷の槍が目の前に出現していた。

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