第458話 誘い
「……どうだ?」
俺が尋ねると、雹菜は手を握ったり体を捻ったりしながら確認してから頷き、
「……うん、いい感じ。やっぱりかなりの魔力持ってたみたいね。あのレッサードラゴン。その割に、大した被害なく倒せたけど」
そう言った。
雹菜の言葉の意味は、俺がレッサードラゴンの魔力を操って、俺と雹菜に半分ずつ同化させたからだな。
強化の機会は逃すつもりはない。
とはいえ、雹菜くらいにまで至ってしまうと、俺が魔力を操って同化させても強化度合いは小さくなってしまうが、それでも通常ならかなり無駄になってる魔物の魔力を活用出来るのだからエコだ。
ちなみに、ちゃんと他の冒険者たちにも魔力が行き渡ったのを確認した上での余りを操ってるので、不当に上前を跳ねるようなことをしているわけではない。
やろうと思えば出来るけど、流石に命を賭けて戦った冒険者たちからそんなことをするような酷い性格はしていない。
「……やぁ、終わった終わった。あとは、素材回収だけだぜ」
賀東さんが様々な指示──素材解体や、重傷者の治療、今後の予定などについて──を終えたようで、そんな風に言いながら俺たちのところにやってきた。
と言っても、ただ世間話に来た、というわけではないのは分かっているが、とりあえず、雹菜が賀東さんに言う。
「そう……よかった。それにしても無事にレッサードラゴンを倒せて安心したわ。でもここまで余裕なのは意外だったけど」
「それなんだけどよ、俺も意外だ。何人か死ぬと普通に思ってたからな。流石に全滅するとは思ってなかったが。事前に色々と煽ったが、レッサードラゴン戦はあくまでも前哨戦に過ぎん。本当の目的は、この先のダンジョン、そしてその先にあるだろう《初期職転職の間》よりも上位職に転職出来る場所へ進むことだ」
「……もしかして、このまま進むんですか?」
目標がそこにあることは分かっていたが、どれくらいの休みを経て、とかその辺りについての計画は聞いてなかった。
というか、計画を立てようがなかったのだろうとは思っているが。
何せ、ここでほぼ全員が重傷だったら先に進むも何もないからな。
事実、賀東さんは言う。
「まさか。流石に休みを入れるさ。二日三日な。それくらいで済みそうなのもありがたい話だが……。流石に今日重傷を負った奴らは攻略メンバーからは外すが」
「ですよね。攻略は……八人までならパーティー組めるんでしたか?」
「あぁ、それは確認できてる。それより増えると魔物が急に強くなるから無理だな。で、そこでお前らに聞きたいことがある」
あぁ、来たかと思った。
ここで雹菜が前に出て、
「何かしら?」
と読めない表情で微笑みながら言う。
「……守りたいのは分かるが、別に喧伝するつもりもないから駆け引きは最低限で頼むわ」
「なんのことか分からないけど、わかったと言っておくわ」
「よし。聞きたいのは一つだ。お前ら、さっきの戦いの最後の方で見せた力はなんだ? 俺には魔力は見えねぇが、気配は分かる。創から雹菜に補助が飛んでるのは理解したが……強化率がおかしい。あそこまでの補助術は、今のところ確認されていない」
やっぱりそれか、と雹菜と目を合わせる。
その時点で雹菜もそこまで強硬に隠すつもりがないことも分かった。
隠したいなら、俺と目なんて合わせずに、知らないわっていうだけだろうからな。
俺としても別に賀東さんにはことさらに隠す必要はないだろう、と思っている。
まぁ俺のそういう判断は、甘いと雹菜には言われがちなので、交渉は彼女に全て任せるが。
そして、そんな雹菜が言った。
「その前に聞いておきたいけど、それを聞いてどうするの?」
「俺としては、この先のダンジョンの攻略パーティーの第一陣の八人に、お前らを推薦したい。他のメンバーは俺たちと《影供》のメンバーになるから、秘密を守りたいというのなら、そういう意味でも悪い話じゃないはずだ。どうだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます