第459話 話がまとまる
俺たちを、《転職の塔》ダンジョンの攻略パーティーの第一陣に加えたい。
賀東さんが言ったこの提案だが、俺たちにとっては悪い話ではないように思う。
そもそも、《転職の塔》の攻略は冒険者全員にとって利益のあることだ。
加えて、未攻略のダンジョンというのは貴重な魔道具や素材の宝庫である。
誰だって出来ることなら攻略したいと考える。
だが、実際に出来る者は少ない。
それは、未攻略のダンジョンと言ったら、それはほとんどが最前線と言ってよく、しかも《転職の塔》ダンジョンは何度も多くの人が挑戦して失敗しているから確実にそう言えるところだ。
そして、そういったダンジョンを攻略するためには、トップクラスの冒険者が何人も集まってパーティーを作るしかないが、現状、《転職の塔》ダンジョンをまともに攻略出来る人材──これはただ死なないでいられるということまで含まれる──すらも少数なのだ。
しかし、賀東さんや《影供》のメンバーは、まさにそのまともに攻略できる人材に当たる。
そこに加えてもらえる、というのは中々ない機会であった。
もしも、《無色の団》で攻略しようとしても、可能なのは雹菜、それに補助術を扱う俺くらいしか今はいないしな。
慎重に進めていけば二人でもなんとか出来るかもしれない。
けれどそれにはかなりの時間がかかることは予想された。
それよりも、腕の立つパーティーに追加メンバー的に加えてもらった方が、攻略速度を上げられるのは間違いない。
特に《影供》のメンバーは、弔い合戦に何度も《転職の塔》ダンジョンに挑んでいる。
いわゆるシェルパ的に案内役を務められる数少ない存在なわけで、余計にありがたいと言えた。
これくらいのことは当然、雹菜も理解しており、だからこそ、賀東さんに言う。
「……そういうことなら、話してもいいけど、当然、実際に攻略で活用するつもりよね?」
「それはもちろんだ。そうでなければそもそも聞かないしな。補助系や回復系は効果を知っておかないとパーティーに加えた時の立ち回りがうまくいかねぇし、だからこそ知っておきたかった。不当に情報をよこせってわけじゃない」
これは、補助術だとどれくらいの強化率か、強化時間か、またどの程度の相手までかけられるかなどの諸条件を知っておかないと危険だからだな。
回復系も同じで、回復量やかけられる回数、治療可能な傷や状態異常の範囲の共有はどうしても必要だ。
反面、戦士系については大雑把な理解でもなんとかなる部分がある。
それでも、ある程度の立ち回りや、どのレベルまでの相手なら単独で倒せるかとか、そういったことは話しておかないと危険だ。
特に、最前線の攻略ともなれば、臨時パーティーに近くても、細かな連携などを事前に確かめたりするのは基本だからな。
そのため、雹菜は賀東さんに言う。
「分かったわ。色々と共有しましょう……でも、実際に試してみた方がいいし、通常の補助系と違ってクセもあるはずだから、事前に慣れておいた方がいいと思うの」
「まぁそりゃそうだろうが……それで?」
「休養を二日三日とるって話だけど、軽い訓練くらいなら賀東さんや《影供》のメンバーなら問題ないでしょう? みんな大した怪我はないようだし」
「あぁ……実際にかけてみてくれるのか? ありがたい話だがいいのか?」
「正直、別にバレたからってどうこうってものでもないしね。出来るだけ優位を保ちたいから言いふらさないでほしいけど」
「その辺は秘密保持契約を事前に結ぶことにすりゃいいだろ。じゃあ、《影供》の奴らにはその方向で話しておく。訓練場所についても、うちの方で手を回しておくか? マスコミ関係が来そうだから、その辺もシャットアウトできるところがいいだろ。あぁ、それだと撮影機器とか俺たちが置きそうだって信用できないなら、そっちで用意してもらってもいいが」
「そこは信頼しておくわ。だからお願い」
「わかった」
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