第460話 ドーム前
次の日。
「……昨日、突然決まったことなのにすでにこれか……」
俺がつい、そう溢してしまったのは、目の前に広がる光景を見たからだ。
まず目に入るのは、巨大なドーム。
これは渋谷に作られた冒険者のための訓練施設《アドベンチャラードーム》という建物だ。
基本的には野球場とかサッカー場などといった競技場と変わらない。
というか、そういう用途で使われることもある。
ただ、異なるのはあくまでも冒険者優先で使える施設であり、かつそのための様々な設備が整っているところだな。
特に、A級クラスの攻撃であってもある程度耐え抜く障壁装置がいくつも設置されているのが一番の売りだろう。
A級冒険者の攻撃を耐えられるような障壁など、それこそ普通ならA級でなければ張りようがないからな。
それをどうしているかといえば、言わずと知れた《星宮製》の最高級品を使っている。
これは、人間の技術と迷宮産出品とを組み合わせたもので、詳しい仕様は公表されていないが、他の冒険者用魔道具メーカーか実現出来ていないことだ。
そのため、このような設備については星宮財閥がほとんど独占している。
そんな最新設備を備えたドーム前に、大勢の人が集まっているのが見えた。
若い者と、記者らしきカメラなどを持った集団とが混じっているのが確認できる。
「賀東さんがバラしたってことはまずないでしょうから、単純に常に高位冒険者についてる番記者たちでしょうね。賀東さんとか《影供》のメンバーの誰かについてたら、ここにやってきて、しかも複数の高位冒険者が来たものだから応援を呼んで、みたいなことでしょう」
「あそこに飛び込むの嫌なんだけど……裏口とかないのか?」
「あるけどそっちも多分大して変わらないわよ? 堂々と行きましょう。質問には……まぁ適度に答えてもいいと思うわ。別にスパイとかしても仕方のないことだしね」
「無視しろって言うかと思ったから意外だ」
「創自身の能力とかについて聞かれたらそこは答えなくていいけどね。マスコミはあんまり好きじゃないけど、冒険者がどれくらい頑張ってるかとか、攻略に希望が持てそうだとか、そういうことを一般の人たちに伝えてもらうのは大事なことだし。こんな世の中だからね……希望がないとやってけないでしょう」
「こんな世の中か……確かにな」
つまりは、魔物に人類が押され続け、世界各地に迷宮が生まれ、そして人の領域すら魔境という形で奪われてしまっている状況のことだ。
人類は本当にジリ貧なのだ。
そこに、冒険者の活動が順調だと知らせることで、少しは前向きになってもらおうと、そういうことだ。
雹菜は別に目立ちたがりではないけれど、忙しい高位冒険者の割にそれなりにマスコミの前には出る。
もちろん、冒険者としての仕事が優先だし、アイドル扱いみたいなのは望んでいないため、そういうのを強く前に出したような番組には出ないが、それでも冒険者のことを特集する番組とかニュースでの説明とかを求められるような機会には、積極的に出演している。
それは、そういう、一般の人たちの希望の灯を消したくないという思いからなのだろう。
俺も以前は良くマネージャーよろしくそういう現場について行ってたしな。
今もたまに行くが、前ほどでは無くなっているが。
一時、異世界に行ってたからな。
断絶したのだ。
ただ、戻ってきた後に同じ役割に戻ろうか、と提案したが、雹菜はたまには手伝って欲しいが、そのうち俺自身も取材される日は遠くないだろうから、もうマネージャーという感じの立場でいるのは良くないだろうという話になった。
そんな日が果たして来るのだろうか、と当時は思っていたが、今まさにそんな話が正しかったのだと、ドーム前の人々を見ると理解させられる。
「さ、行きましょう」
そう言った雹菜に、俺は、
「あぁ」
そう答えて、ついて行ったのだった。
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