第396話 妹と迷宮探索 5
第三階層はコボルト系の巣だ。
第二階層と同様、大きな道があって、そこを歩いている限りは、ほとんどがノーマルコボルトしか現れない。
ただ、そうは言っても例外というのもたまにはあるわけで……。
「えっ、ちょっ! お兄ちゃん! あれって!」
道の向こうから近づいてくる人影というか、魔物の影に、佳織は剣を構えつつ叫ぶ。
向こうから近づいてくるその影は、三匹は明らかにノーマルコボルトのそれだったが、一匹だけ違っていた。
大きさはさして変わらないが、手に杖のようなものを持っている上、少しだぼっとした服……おそらくはローブを着ている。
「あれは、コボルトメイジだな。珍しい」
「のんきなこと言ってないでさ……! 強いんでしょ!?」
「あぁ。ノーマルコボルトよりは一つ上のランクの魔物だからな。特徴は覚えてるか?」
「えっと……ノーマルより腕力とか速度は低いけど、ゴブリンよりは素早い。ノーマルを引き連れている場合にはリーダー格として指示を出すことが多い。そして何より、最下級とは言え、術を使う……」
緊張の中、思い出して一つ一つ特徴を挙げていく佳織。
「うん、正しいな。で、ああいうグループで出てきた場合の対処は?」
「可能なら先にメイジを倒す。でも難しそうなら無理せずに、一匹ずつノーマルを倒してもいい」
「その理由は?」
「コボルトメイジは治癒系の術は使えないから、倒してもノーマルが復帰してくることはないから……もう、もうちょいで来るよ、お兄ちゃん!」
「慌てるなって。対処も正解。じゃあ、自分の良きところで襲いかかれ。応援してるぞ」
「他人事だと思って……行くよ!」
そして、佳織はコボルト達がこちらに向かってくる直前に、むしろ佳織の方からしかけた。
コボルト系は不意打ちが得意だから、先手を取らせない方がいい、というのも覚えていてのことだろう。
だからこそ、のんきに質問を続ける俺に焦れていたのもあるだろうが。
しかし、危なげない戦いぶりで、佳織も心配しすぎな感じもある。
まぁ、迷宮なんて初めて来たのだから、無理もないか。
俺が初めて来たときよりもずっと落ち着いている。
というか、俺は魔物もまともに倒せなかったからな。
その状態で何度も潜り続けたのはほぼ自殺行為だったなと佳織を見ながら思う。
ちなみに、佳織はノーマルコボルトを先に倒す方を選択した。
思ったよりコボルトメイジの方が後方にいて、そこまで押し込むのは中々難しいと思ったのだろう。
佳織がノーマルのところまで辿り着いた時点で、コボルトメイジは詠唱を始めていたというのもある。
不用意に近づけば術によってひどい目に遭いそうだったからな。
実際、ノーマルと剣を合わせる佳織に、何度となくコボルトメイジの術……《炎術》だな……が飛ばされていたが、佳織はうまくそれを避けた。
そもそも、ノーマルに囲まれている状態であったためか、コボルトメイジの狙いもあまり定まっていなかった。
これは佳織があえて企図したことで、巧みな戦略であったと言える。
そして、全てのノーマルコボルトの命を奪った後、佳織はついにコボルトメイジに向かって駆ける。
コボルトメイジは慌てて次の術を構築しようとするも、魔力切れのようで不発で終わった。
ノーマルに囲まれてる佳織に撃ち込みすぎたのだろうな。
結果として、目の前にやってきた佳織と杖で応戦する羽目になるが、あれはあくまでも術の行使を楽にするための魔道具に過ぎない。
佳織によって一撃で切り落とされ、そのまま首を狩られて絶命したのだった。
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