第397話 妹と迷宮探索 6

「さて、そろそろ帰るか!」


 佳織がコボルトにも慣れたところで、俺はそう言った。

 俺の言葉に佳織は、


「えーっ、まだまだやれるよ! 四階層まで行こうよ!」


 そう言ってくるも、俺はこれには首を横に振る。


「ダメダメ。調子に乗るなって。いい加減、足に来てるの知ってるんだからな」


 佳織は元気そうなふりをしていて、実際には疲労がたまっている、なんてことが多いタイプだ。

 これは冒険者稼業とかに限らず、普段からそういう傾向がある。

 熱があっても学校に行こうとするとか、小中学校のときからあったからな。

 まぁ、学校くらいなら、まだいい。

 風邪を人にうつす可能性とか考えると駄目っちゃ駄目だし、今はもうしないだろうが。

 しかし、こと迷宮探索に限っては、無理は禁物だ。

 確かに、場合によっては無理せざるを得ないときも、冒険者にはある。

 だけど今はそうじゃないのだから。

 俺の言葉に佳織は、


「……バレてたか」


 と舌を出して言う。


「何年お前の兄貴をやってると思ってるんだよ。まぁとにかく、迷宮なんてこれからいくらでも来られるんだ。今日無理する必要はない。だろ?」


「そうだね……分かった。戻ろっか。あっ、そうだ。魔石とか素材の報酬は山分け?」


「いや、全部お前の総取りでいいよ。俺はほとんど戦ってないし」


「えっ、いいの!? でもお兄ちゃんがいてくれなきゃ、こんなところまで安心してこられなかったけど」


「まぁなぁ……でも俺にとってはゴブリンとかコボルトの素材での儲けなんて微々たるもおのだし……。お前のいい小遣いになるだろ」


 今日だけの稼ぎで数万円にはなる。

 高校生には十分な額だろう。

 実際、佳織は喜んで、


「ありがとう! お兄ちゃん! 何買おっかなぁ……新しい剣とかかなぁ……」


 とか帰り道、悩んでいた。

 もっとファンシーなものを買うんじゃないかと思ってたが、実利一辺倒だったのは佳織らしいと思った。

 これからのことを考えるなら、それで正しいとは思うが。

 ただ数万円じゃ剣は流石に無理だろうから、せいぜい短剣だろうな……。

 

 そんなことを考えつつ、出口近くに辿り着いた俺たちだったが……。


「……お兄ちゃん、あれ、何?」


「いやぁ……俺にもなんだか分からないな……」


 俺と佳織の目の前には、何か妙な黒い穴が存在していた。

 それを避けて進もうとしてみるが、その穴はむしろ俺たちの行く先を遮るように素早く回り込んでくる。

 なんだこれは……。

 

 いや、若干だが、推測がつく。

 ただし、そうだとしたら、余計に触れたくはなかった。

 最悪俺は構わないが、佳織はな……。

 そう思った俺は、


「佳織、お前は右から回り込んでみてくれ。俺は左から行く。もしも俺に何かあったら、先に迷宮の外に出てろ。夕方まで待って帰ってこなかったら、雹菜に連絡してくれ」


 そう言った。


「お兄ちゃん……? あれがなんなのか、知ってるの?」


「うーん、はっきりとは言えないんだが、たぶん……。まぁ、前と同じなら、すぐに戻れるはずだからあんまり心配するな」


 前の時は、戻り方とかそういう詳細が一切分からなかったからな。

 今なら違う。

 結局佳織は、


「……分かった。無茶しないでね」


 そう言ったので、俺は頷き、


「よし、じゃあ、いっせーの、で行くぞ。いっせー、のっ!!」


 そして俺と佳織は二手に分かれて逆方向へ回り込んだ。

 すると黒い穴は俺の方へと回り込んできたので、やっぱりか、と思った。

 佳織はそのまま、迷宮の出口へ向かうが、その直前、後ろを振り向いて、


「お兄ちゃん!」


 そう言った。

 けれどその時には俺はすでに黒い穴に触れてしまっていて、目の前が暗闇に沈んでいく。


 ……すぐ戻れると良いな。


 そう思いながら。

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