第176話 宮野静《後》

 まず、天沢創。

 彼について気になることはいくつもあったが、まずそもそも、ステータスからして次元が違った。

 器用と精神の数値が、今まで一度も見たことがないようなレベルにまで至っているのだ。

 私が過去に見たことがあるステータスの数値の最高値は、とあるA級冒険者の持っていた腕力の値である、458だった。

 それを見た時ですら、私は空恐ろしくなったものだった。

 何せそれは素手で岩を砕き、鉄を引きちぎることすらも可能とする数字で、およそ人間をやめているとはっきり言っていい、まさに化け物だけが持つ数値に他ならなかったからだ。

 けれど。

 けれど、だ。


 この天沢創が持っているステータスは……そんな数字すらも嘲笑うように軽く超えていってしまっている。

 私は、ステータスの最高値は三桁なのではないか、とどこかで思っていたが、それは完全な気のせいらしいということがわかった瞬間でもあった。

 2908に、3090?

 一体どうすればこんな数字に至れるというのだろう。

 努力か、才能か、はたまたそれ以外の何かか……想像もつかなかった。

 ただ、不思議だったのは、その器用と精神以外のステータスだった。

 他は、普通だ。

 いや、普通と言っても、一般的な冒険者から比べてばかなり高い方であるのは間違いない。

 さらにいうなら称号に《E級冒険者)の文字が存在している。

 つまり、彼はE級であり、そうであるにも関わらずこの数値ということは、かなり強力な冒険者だと言っていい。

 こんなのがE級にいるなんてほぼ、詐欺だと言っていいくらいに。

 でも、所詮はその程度だ。

 B級上位ならそれなりにいるだろう数字と言っていい。

 つまり、いないわけではない。

 冒険者のクラス分けなど、人間が決めただけの枠組みに過ぎないから、たまたま試験を受けなかっただけだと考えればおかしくはない。

 だが、器用と精神は……。


 それに、それ以外についてもおかしかった。

 そもそも、雹菜の職業を見た時も少しだけ気になっていたのだ。

 《オリジンの従者》とは一体なんぞや、と。

 まぁ、あくまで少しだったのは、高位の冒険者が得られる職業には特殊な名称のものがそれなりに確認されていることから、そんなものの一種だろう、と思ったに過ぎないので、その程度だった。

 例えば、《炎の支配者》とか《孤独な刀》などといった、一見、職業か?というようなものがいくつかある。

 だから、そんなものの一種だろうと思えば別にそこまでおかしくはなかった。

 けれど、天沢創の称号と合わせてみると話が変わってくる。

 彼には《地球最初のオリジン》の称号があった。

 オリジン、だけならここまで気にしなかっただろう。

 しかし、地球最初の、と来た。

 これは彼こそがこの称号を初めて地球で得た、という意味合いに他ならず、そしてそのことに強い意義があるからこその表示ということになるだろう。 

 他の、例えば職業などでも初めて得た者がわかっているものがあるが、そういうものにこんな言葉がついているのを見たことがない。

 この称号には、おそらく深い意味があるのだ。

 内容を詳しく見るに、不可視のエネルギーを自らの才覚で操った者をそういうらしいが……スキルとは違うのだろうか?

 細かいことは分からないが……。

 さらに、スキルではなくアーツの欄には、彼の苗字を冠したがアーツが二つある。

 もっと深く見てみると、そのアーツの中にはいくつもの技や術が含まれているらしく、かなり強力そうなものばかりだ。

 そしてそれらの技のいずれにも、《オリジン以外使用不可)との文字がある。

 一体これは……。


 全てのステータスが、謎に包まれている。

 そんな存在。

 それこそが、彼、天沢創だった。

 そして……だからこそ、私は思ってしまったのだ。

 彼らなら……私の異常な状態を理解して、何らかの解決策をくれるのではないかと。

 呪われたような、ステータスオール1の私を。

 きっと……。


 それからのことは、知っての通りだ。

 彼らは正しく私を救ってくれた。

 それに、今までここに来た冒険者たちとは異なって、私をただの鑑定道具として使おう、とはしなかった。

 もちろん、それは彼らの若さに原因があるだろうとは思う。

 ビジネス的に考えるなら、むしろ私のことはそういう機能を持った道具としてうまく運用するのが正しいからだ。

 ただ、私も多分、まだ幼いのだと思う。

 若い彼らのそういう、青臭い空気が……とても心地よくて。

 だから、私はこのギルド、《無色の団》に入ることを頼むことにしたのだった。

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